研究課題
東洋区のインドシナ―スンダ亜区間での地理的分断により分化したと考えられる陸上無脊椎動物(昆虫および陸産貝類)について、形態による分類学的再検討とDNA塩基配列による分子系統解析から両亜区間での動物相の遺伝的分化と形成過程を明らかにし、両亜区間の生物地理学的境界の成立要因を解明することを目的とした。また両亜区間での分岐年代の推定を行い、生物地理学的情報から地史を復元することで、他分野にも寄与することも目指した。具体的に平成24年度は、DNAサンプルがほぼ揃っているチョウ・ガ類(アゲハチョウ科、シジミチョウ科、カイコガ科)のmtDNAのCOI、ND5、CytBと核のRpl5とLdh、さらには昨年度に不足していた一部の陸産貝類(ゴマガイ科)のND1、ND4L、CytBをPCR法で増幅し、塩基配列を決定し、各地域集団間、亜種間、種間の遺伝的分化や系統関係を解析した。同時並行的に上記の分類群における形態学的研究も進めた。研究材料の収集のための調査は、マレーシアの半島部と島嶼部での現地調査を1回実施し、足りなかったサンプルを補充した。特に甲虫とアリのサンプルの充実を図った。これらのサンプルの分類学的特徴も同定、撮影した。平成24年度の研究成果としては、チョウ・ガ類ではアゲハチョウ科Papilio属の形態学的研究および生態学的研究を発表、出版した。分子系統学的研究では、シジミチョウ科Tongeia属、カイコガ科Trilocha属の国際誌への発表、出版を行なった。シジミチョウ科Neomyrina属の系統生物地理学研究については現在投稿中である。形態と分子の双方のアプローチによる陸産貝類(ゴマガイ科)の成果の一部は日本貝類学会にて発表した。
2: おおむね順調に進展している
形態学的研究については、一部のアリ類や甲虫類のようなサンプル数がやや不十分なグループではやや難航しているが、現在サンプルが充実しているグループではほぼ達成することができた。分子系統解析に関しても、これまで順調に集まったサンプルの範囲内では問題なく進んでいる。研究成果の執筆や投稿、出版などについては、予定通りシジミチョウ科、カイコガ科で成果が上がっている他、当初の計画ではあまり期待していなかったアゲハチョウ科で大きな成果があり、発表や出版を積極的に進めてきた。海外調査に関しては、分子系統学的研究に関する費用の比重が予想以上に高まり、資金の不足から当初予定していた回数(2回)を1回に減らさざるを得なかった。そのため、一部のグループでは上記のようにサンプル不足の状況にある。ただし、全体的な研究の進み具合や成果の出版、公開等はおよそ順調で、このペースを守りながら次年度も研究に邁進していきたいと考えている。
引き続き現地研究者との連携・協力を仰ぐとともに、可能であれば昨年実施できなかった現地調査1回分を実行して、サンプルのさらなる充実を図る。分子系統解析を出来る限り進めて、より精度の高い解析結果を導くためのデータを蓄積する。これまで得られた成果を統合し、インドシナ―スンダ亜区間で生じた無脊椎動物相の形成過程の全体像を構築する。多数の分類群について両集団間の分岐年代を算出し、分断時期や陸橋形成時期を推定する。得られた生物地理学的情報をこれまでに知られている地史データと対応させて古地理を再検討する。また、両地域集団間の遺伝的距離と共通する分類群の頻度を総合した分化時期類似度を導き出し、生物地理学的境界の位置と成立時期を復元する。得られた結果を取りまとめ、成果の発表を行うとともに、論文の投稿、出版を進める。一方、本研究を総括した内容を代表者が所属する博物館のHP内にあるウェブミュージアム上に研究成果をアップする他、企画展およびモバイル展などによる展示企画を進めることで、本成果を社会に広く公開発信する。
24年度までの結果を検討しながら、分子系統解析をさらに進めて、次年度前半までに解析を終了させる。試薬、チップ、チューブ等の系統解析にかかる費用はこれまでの年度の約半額とする。同時に実験助手の経費も少し減額する。最終的な成果をまとめて学会発表するとともに、合わせて論文の執筆、出版を進める。学会発表では旅費や宿泊費を計上する。論文出版では投稿料、カラーチャージ、オープンアクセス料、別刷代金などの費用が予想される。このことから成果発表のための費用は増額する。さらに本館で展示を行うための経費を加算する。これには展示経費の他、チラシ、ポスターのような広告代金、図録の費用などが考えられる。
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