研究課題/領域番号 |
23570113
|
研究機関 | 三重大学 |
研究代表者 |
宮崎 多惠子 三重大学, 生物資源学研究科, 准教授 (60346004)
|
キーワード | オプシン / 環境適応 / 色覚 / 魚類 / 分子進化 |
研究概要 |
前年度に引き続いて様々な水深に棲息するサバ亜目魚類の新たな種を入手してオプシン遺伝子のスクリーニングを行った。これまでサバ亜目魚類からは赤およびUVオプシン遺伝子は得られておらず、青および緑オプシン遺伝子による2色色覚型であると推定してきたが、ある種でゲノムDNA上にUV遺伝子が存在することを確認した。同遺伝子断片から特異プライマーを設計してRT-PCRを行ったが増幅産物は得られず、本種においては、UV遺伝子RNAは発現していない可能性が示唆された。一方、サバ亜目魚類の全般種で確認されている青および緑オプシン遺伝子について、生息水深別に発現レベルを検証したところ、表中層性種は両オプシンともに2種類の遺伝子を発現し、中層性の種は緑オプシン遺伝子のみを重複発現していた。さらに深層性の種では緑オプシン遺伝子のみの発現であることがわかった。これらオプシン遺伝子の発現は、種が棲息する水深の分光分布特性によく一致していることが明らかとなった。表層で適応分散したダツ目魚類のオプシンについてもオプシン遺伝子の探索を継続したところ、これまで赤オプシン遺伝子のみが確認されていたが、ある種で緑オプシン遺伝子を単離することができた。両遺伝子の発現レベルをRT-PCR法で確認したところ、赤オプシン遺伝子がもっぱら優占することが示された。 これらオプシン遺伝子をオプシンタンパク再合成のための専用ベクターに組み込むため、RACE法による上流および下流側非翻訳領域の解読を行い、コンストラクトの合成を実施した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
サバ亜目、およびダツ目魚類について新たな魚種を入手してオプシン遺伝子発現解析を継続したところ、いずれの魚類グループにおいても、これまでに単離されなかった別のクラスのオプシン遺伝子を単離することに成功した。これにより、サバ亜目魚類については目標とした各魚種が棲息する水深の波長特性とオプシン遺伝子の発現バリエーションとの相関を見出すことができた。また、ゲノム解析によりUV遺伝子をゲノム上に持つことを確認することができ、本亜目魚類のより表層性の種はUVオプシン遺伝子を発現している可能性を見出した。これは本課題を発展させる新たな目標をとなった。一方、ダツ目魚類についても発現量が非常に少ない緑オプシン遺伝子を単離することに成功した。表層には幅広い波長域の光が存在することから、表層性のダツ目魚類は全4クラスのオプシン遺伝子をもつことが予測されるが、UVおよび青オプシン遺伝子の単離には至っていない。サバ亜目ではゲノム解析でのUV遺伝子の単離に成功しており、両遺伝子のゲノムDNAからの単離を試みる必要性が残された。オプシンタンパク再合成のためのコンストラクト作製に関しては非翻訳領域の解読をすすめたが、同領域の長さが淡水魚よりも短い傾向があり、本課題水深のためにゲノム解析に重点をおく必要があるという方向性を確認できた。
|
今後の研究の推進方策 |
今年度、サバ亜目およびダツ目魚類で新たに発現が確認されたオプシン遺伝子があり、また、サバ亜目魚類では棲息する水深の違いにより、発現している青および緑オプシン遺伝子の数が異なったことから、両魚類グループの各魚種について、それぞれの遺伝子を保有するか否か、また、重複の有無を確認する必要が出てきた。そこで今年度はサザンハイブリダイゼーション法を実施し、生息水深と遺伝子バリエーションとの相関を最終確認していく。オプシンタンパク再合成のためのコンストラクトの合成は海産魚では比較的難しい作業になることが今年度のゲノム配列解析でわかったが、完成したコンストラクトから順に専用のベクターに組み込み、動物細胞培養によって同タンパクの再合成を試みていく。
|
次年度の研究費の使用計画 |
サザンハイブリダイゼーション法を各魚種の各クラスオプシン遺伝子で実施するため、プローブ合成試薬、シグナル検出のための抗体やフィルム等に多くの予算が配分される予定である。オプシンタンパク再合成で実施する細胞培養のための試薬ならびに抗体はアメリカからの入手となり、これらの購入費と輸送料へも予算が充てられる。また、オプシンタンパクの吸光度測定に十分な量の細胞培養産物を取得するためするためには、通常のタンパクよりも大量合成が必要である。上記に加えて大型シャーレ等のプラスチック消耗品やタンパク精製のためのカラムにも支出予定である。
|