サバ亜目魚類についてはこれまでにRT-PCR法によりSWS2とRH2オプシン遺伝子の重複が確認されている。また、ダツ亜目においてはLWSオプシンの発現量が多いことが示されてきた。今年度は、各魚種において、これらオプシン遺伝子クラスにサザンハイブリダイゼーション法を適用することにより、生息水深と遺伝子バリエーションとの関連を調べた。ダツ亜目のLWSクラスに関しては、種によって2~3種類のコピーが確認された。同一魚種におけるアミノ酸配列の相同性は96~98%であり、コピーオプシンタンパクの吸収波長にほとんど差はないと示唆された。サバ亜目に関しては、RH2クラスは表中層性の魚種が2~4種類、SWS2は表層性の種が2種類のコピーを持つことが示された。一方、深層性の魚種はRH2、SWS2ともコピーが確認できなかった。コピー遺伝子のアミノ酸配列の相同性は76~88%であり、アミノ酸シフトによる吸収波長の差が生じていると示唆された。すなわち、表層で種分化を果たしてきたダツ亜目は、色覚のバリエーションを増やすのではなく、同じ吸収波長のオプシンをより多く発現させる戦略をとり、アミノ酸変異を起こさずに同遺伝子を重複させていると推察された。これに対して、表層からおよそ1000mの深海まで鉛直方向に水深を異にしながら種を分化させたサバ亜目は、海洋中に最も豊富な青~緑域に吸収波長をもつSWS2とRH2クラスのオプシン遺伝子アミノ酸を多様に変異させ、各魚種が色覚のバリエーションを増やすことでそれぞれの生息水深に適応していったものと推察した。現在、これらオプシンタンパクの再構成を進めており、今後は吸収波長の特定を行う。また、種の行動生態をよく反映することが知られている網膜神経節細胞の分布や錐体細胞の局在を解析することにより、見る角度による色覚の違いと、その生態的意義について理解を深める。
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