研究課題/領域番号 |
23570117
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
長沼 毅 広島大学, 生物圏科学研究科, 准教授 (70263738)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 分類群 / 微生物 / ゆっくり増える菌 / 系統進化 / 生物地理 / チュニジア / サハラ砂漠 |
研究概要 |
既知の菌のどれとも16S rRNA遺伝子の相同性が最大82%しかなかったサハラ砂漠東縁(チュニジア)から単離した好気性の「ゆっくり増える菌」の1株(Shr3株)は、高いレベルで新規分類群を提唱できる可能性がある。また、これに近縁(相同性98%)の環境DNAシーケンスが、水田の脱窒層(嫌気層)から検出されていることから、これを含む高度新規菌3株の生理生化学的特性を明らかにして記載するとともに、その系統進化と生物地理(系統地理)に関する知見を得ることを本研究の主な目的とする。 本年度は、まず、Shr3株の同定分類について、細胞形態や化学分類・数値分類といった一般的な記載項目に関するデータ、性状試験(炭素源資化性)、および、DNAのGC含量などのデータを取得した。 次に、Shr3を含む高度新規菌3株について、16S rRNA遺伝子、および、他の遺伝子のシーケンスに関するバイオインフォマティクスによる詳細な検討を行った。相同性検索には、アポロンDB-BA6.0のデータベース(2010年3月現在、約7,700種)、および、GenBank/DDBJ/EMBL を用いた。 さらに、Shr3株の16S rRNA遺伝子に特異的なPCRプライマーを作成し、これまでに集めた世界各地、南極、北極、砂漠などの環境サンプルに対し、網羅的なPCR検出を行った。また、国内の火山、深部地下、海洋といった多様な環境からもサンプルを採集し、PCR検出を試みた。 それらの結果、Shr3 は proteobacteria 門に帰属する既知の菌群とは系統的に異なる、新規な細菌であり、綱レベルで新しい分類群を構成する細菌である可能性が非常に高まった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究を進めるに当たり、データおよびデータ解析の高度な信頼性の確保のために、国立遺伝学研究所のDNAデータベース(DDBJ)を利用し、さらに、英国微生物菌株保存機関NCIMBのグループ企業(株式会社テクノスルガ・ラボ)の専門家らとも、ディスカッションを重ねてきた。 それにより、研究の目的達成に向けた本年度の研究計画である、1. 一般的な記載項目セットのデータ取得、2. バイオインフォマティクスによる系統分類的な位置づけ、3. 16S rRNA遺伝子のPCRプライマーを用いた系統地理的な分布調査、については、おおむね着実に遂行することができ、得られたデータは、非常に信頼性の高いものとなった。 また、得られた分子系統解析、生理・生化学性状、化学分類学的性状・GC含量、および、菌体脂肪酸組成分析等から推測される結果は、本研究目的達成にとって非常に有効な結果を示しており、おおむね順調に「研究の目的」の達成にむけて進展していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
本研究で扱っている菌株Shr3は典型的な「ゆっくり増える菌」であり、増殖至適条件を見出すための培養実験では非至適条件での増殖に非常に時間がかかった。このとき、時間短縮をして信頼性の低いデータを取得するより、信頼性の高いデータ取得を心掛け、丁寧に着実に実験・培養を行ったため、予定していた実験・解析の全てを行うことが出来なかった。そのため、本年度実施しきれなかった実験・解析を次年度に行うため、研究費を次年度に使用することとした。 本年度の16S rDNA塩基配列解析の結果から、検体とクラスターを形成したクローンが、主に、土壌や汚水処理のバイオフィルム、海藻、海水など広く環境試料から検出されていることから、次年度は、さらに様々な環境サンプルに対し、網羅的にPCR検出を行い、追加データの取得を行う。 また、ゲノムサイズのデータも取得し、平成23年度に取得したデータと合わせて新規分類群の記載論文を書き、学術誌に投稿する予定である。ただし、これほど高いレベルでの新規分類群となると、査読でどのような追加データを要求されるか、予測のつかない部分がある。予想できるものに、DNA-DNAハイブリダイゼーション、16S rRNA遺伝子以外の遺伝子の分子系統データなどがあるが、そのような追加データを取得し、次年度も国立遺伝学研究所のDNAデータベース(DDBJ)を利用して、さらに、英国微生物菌株保存機関NCIMBのグループ企業(株式会社テクノスルガ・ラボ)の専門家らの助力を仰ぎ、ディスカッションの場をもって、本研究を推進していくつもりである。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度の研究費の使用計画としては、まず、前年度からの実験および解析の継続に必要な実験用消耗品類、解析費への支出を計画している。さらに、高信頼性の追加データ取得にあたり、英国微生物菌株保存機関NCIMBのグループ企業(株式会社テクノスルガ・ラボ)等、専門家との会合を設け、細菌学的な知見を深めるため、出張も今年度同様に計画している。 また、ゲノムサイズのデータ取得とともに、様々な環境サンプルに対し、網羅的にPCR検出を行い、追加データの取得を行うため、16S rRNA遺伝子解析のみでなく、16S rRNA遺伝子以外の遺伝子の分子系統データの取得のために、遺伝子解析の外部への委託も計画している。さらに手持ち試料のみならず、色々な環境サンプルの採集のためのサンプリング旅費、その他既存の菌株の購入費の使用も計画している。 そして、次年度は、本年度および次年度に取得するデータと合わせて新規分類群の記載論文を書き、学術誌に投稿予定であるため、論文の英文校閲費等にも研究費を使用する計画である。
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