本研究で扱った菌株Shr3は、非常に高いレベルで新規分類群を提唱できる可能性がある「ゆっくり増える菌」であり、既知の菌のどれとも16S rRNA遺伝子の相同性が最大82%しかなかった好気性の細菌である。これに近縁(相同性98%)な環境細菌2種が、水田の脱窒層から検出されており、これら高度新規菌3株について、生理生化学的特性を明らかにして記載し、その系統進化と生物地理(系統地理)に関する知見を得ることを本研究の主な目的とした。 本年度は、研究実施計画に基づき、これまでに得たShr3株の同定分類について、細胞形態や化学分類・数値分類等の一般的記載項目データ、性状試験(炭素源資化性)、DNAのGC含量等のデータ、透過電子顕微鏡(TEM:JEM-1200EX,日本電子,東京)を使用した超薄切片法による細胞内微細構造の詳細観察、16S rRNA遺伝子、および、他の遺伝子のシーケンスに関するバイオインフォマティクスによる検討結果等を詳細に見直し、それらをもとに作成した最尤法・近隣結合法・最節約法の3種の系統解析法による分子系統樹により、Shr3 がProteobacteria門に帰属する既知の菌群とは系統的に異なる新規性の非常に高い細菌であることを再確認した。 Shr3株は、非常に新規性の高い菌株であることから、信頼性を高めるために、何度も追実験を行い、今年度も引き続き、国立遺伝学研究所や、英国微生物菌株保存機関NCIMBのグループ企業(株式会社テクノスルガ・ラボ)の専門家らの助力を仰ぎ、ディスカッションを行った上で、新たに論文を投稿し(2013年12月)、現在審査中である。高いレベルでの新規分類群の記載論文であるため、慎重に審査されていると思われ、まだ回答は得ていない。なお、Shr3株については、英国微生物菌株保存機関 NCIMB に寄託(寄託番号 NCIMB 14846)している。
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