研究課題/領域番号 |
23570118
|
研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
小早川 義尚 九州大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (20153588)
|
研究分担者 |
舘田 英典 九州大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (70216985)
|
研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
|
キーワード | Hydra / symbiosis / Chlorella / molecular phylogeny |
研究概要 |
遺伝学研究所に維持されていたグリーンヒドラ8系統(viridissimaグループのユーラシア産のもの4系統、北米産のもの2系統と日本産vulgarisグループのもの2系統)を材料に、宿主のヒドラと共生緑藻の分子系統的解析を同時に行い、viridissimaグループのグリーンヒドラの宿主6系統の分子系統樹の分岐パターンと共生クロレラの分子系統樹の分岐パターンが一致することを明らかにすることができた。これは、viridissimaグループのヒドラの祖先とクロレラの間で過去に1回共生が起こり、その後共種分化を繰り返してきたと言うことを示唆した。しかし、自由生活をするクロレラを加えて共生クロレラの分子系統的解析を行うと共生クロレラだけで単系統となることはなかった。Hussら(1993)は、同様の結果から共生の起源は複数回あったとの提案をしている。この、一見矛盾する結果について、申請者らは、ヒドラとクロレラの共生の初期段階では一旦共生を行い宿主と共種分化をした後に再度共生クロレラが自由生活に戻るということを考えれば、過去に1回共生が起こりその後共種分化を繰り返してきたという節も成り立つことを提起した。 また、宿主ヒドラと共生クロレラの関係の種特異性を、上記の分子系統解析によって得られたそれぞれの系統間の遺伝的距離を考慮しながら、共生クロレラを人工的に除去した2系統のviridissimaグループのヒドラに各系統のviridissimaグループのヒドラから抽出したクロレラを再導入し解析することができた。その結果、種特異性は低いことを明らかにすることができた。これは、ヒドラの内胚葉上皮細胞内の環境は相互に似ている、また、長期にヒドラと共生関係を維持してきた共生クロレラの性質も相互に類似してきていることを示していると解釈している。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の予定通り、クロレラを共生させているviridissmaグループのヒドラ(宿主)の分子系統的解析をミトコンドリアDNA の塩基配列情報に基づき解析し、同時に、共生クロレラのの分子系統的解析を核DNA(18rRNA遺伝子)と葉緑体DNA(rbcL遺伝子)の塩基配列情報に基づいて解析することができた。また、両者の分子系統樹の分岐パターンの比較解析をTreeMap1.0(共生関係を解析するソフトウェア-)を利用しておこない、5回の共種分化があったことを推定することができた。一方、自由生活をするクロレラを加えて共生クロレラの分子系統的解析を行うと共生クロレラだけで単系統となることはなかったが、申請者らは、ヒドラとクロレラの共生の初期段階では一旦共生を行い宿主と共種分化をした後に再度共生クロレラが自由生活に戻るということを考えれば、過去に1回共生が起こりその後共種分化を繰り返してきたという説明が成り立つことを提起した。 また、クロレラの再導入実験などにより宿主と共生クロレラ間の種特異性は低いことを明らかにすることができた。 これらの結果は、international Workshop "Searching for Eve: basal metazoans and the evolution of multicellular complexity",(ドイツ、2011.9)、"Molecular phylogenetic study on green hydra and its symbionts, Chlorella species")や動物学会第82回大会(旭川、2011.9)「クロレラの再導入実験による宿主グリンヒドラと共生クロレラの種特異性についての検討」として学会発表を行った。 また、これまでの結果は現在論文にまとめ学術誌に投稿する準備中である。
|
今後の研究の推進方策 |
viridissimaグループのヒドラの共生については、その分子系統的解析等から得られる情報はほぼ得てしまったので、今後は、共生クロレラとの相互関係を明らかにする目的で各種の実験的解析をすすめてゆく。具体的には、緑藻を共生させたグリ-ンヒドラの組織を共生緑藻の除去されたヒドラに移植し作成したキメラヒドラを光強度・給餌量等の条件を変化させて飼育し、一個体内における共生緑藻を持った細胞と持たない細胞の消長を観察することによって、細胞レベルでの緑藻の共生による適応度の変化を解明する。このことは、共生の初期過程を研究する上で重要な知見となりうる。 また、ヒドラが有性生殖する際に、経卵的に共生クロレラが垂直感染するという報告があるがまだまだそのメカニズムについては不明瞭な点が多い。そこで、卵形成過程における共生クロレラの動態を蛍光顕微鏡観察などによって詳細に追跡して行き、ヒドラとクロレラの共生を維持している機構の解明を進める。 viridissimaグループ以外のヒドラ(vulgarisグループ)における、緑藻との共生は不安定なもので、共生の初期段階にあるのではないかと示唆されているが、その実体の解明は進んでいない。この共生緑藻を各種ヒドラへ導入する実験等を行いヒドラと緑藻の共生の初期過程の解明をめざす。
|
次年度の研究費の使用計画 |
2012年度の研究費は、主に実験のための試薬・消耗品(プラスチック器など)と学会発表や材料採集などの旅費等に使用する予定である。 実験のための試薬・消耗品などは、材料のヒドラの飼育維持、材料のヒドラ・クロレラなどの系統確認のための遺伝子塩基配列の決定、共生クロレラの移植実験などに使用する。 研究費の分配は、代表者小早川:400,000円、分担者舘田:100,000円を予定している。
|