海洋性双翅目昆虫が、淡水から海水へ進出した起源地の可能性のある南米大陸に焦点を絞り、本グループの起源地、分散経路、種分化、多様性について解明することが本研究の目的である。全球レベルでの海洋性双翅目昆虫の分散と進化について解明する過程で、南米大陸とインド洋周辺が未調査であり、分散経路を推定する上で欠かせない地域である南米を対象とした。今年度は、南米大陸のうち、ベネズエラ、ウルグアイ、アルゼンチン、ペルー、エクアドルおよびキュラソーで野外調査を行った。その結果、日本(東海地方以北)に分布するキタイソアシナガバエConchopus borealisがペルーから採集された。本種は、北米の太平洋岸とパナマ海峡を越えたアラバマ州からも発見されており、日本から移入した種であると推測されている。今回得た標本からDNAを抽出し、日本のどの地域のものと近縁なのかを解析している所である。熱帯から亜熱帯地方にかけて広範囲に分布するミナミイソアシナガバエ属Cymatopusは、ウルグアイ以北には分布していたが、アルゼンチンには分布していなかった。今回、南米大陸で調査した地点からは、ミナミイソアシナガバエ属と移入種のナミイソアシナガバエ属Conchopusを除き、他の地域にいる属や未記載の属も分布しておらず、属レベルでの多様性にも乏しいことが判明した。
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