小胞体カルシウムポンプATPaseによるCa2+輸送はリン酸化中間体(EP)の形成、異性化と加水分解を経由し、輸送部位にCa2+を閉塞したEP(E1PCa2)の異性化(E1PCa2 → E2P + 2Ca2+)に伴ってCa2+が内腔へ放出される。この異性化では細胞質領域のA(アクチュエーター)ドメインが大きく回転してP(リン酸化)ドメインと結合し、この構造変化が膜ドメインの輸送部位に伝わることでCa2+が輸送される。ヘリックスM2は膜貫通部分(M2m)と細胞質部分(M2c)に概ね区別され、M2cの先端はlinkerループを介してAドメインに繋がっている。これらの領域の2次構造や位置は輸送サイクル中に大きく変化することが結晶構造から予測されるが、その意義は不明である。平成25年度の研究目的は、M2~linkerの機能的役割を解明することである。そこでこれらの領域に、5個のGly挿入変異(伸長とヘリックスの局所的破壊)を導入してその効果を調べた。その結果、Ca2+-ATPase活性は、殆どの5Giにより強く阻害された。Ca2+輸送活性は、M2mおよびlinkerへの5Giによりほぼ完全に阻害され、脱共役を示した。M2mへの5GiではE1PCa2へのCa2+閉塞が障害されていた。E2P加水分解はM2m、M2cの先端部、またはlinkerへの5Giにより強く阻害されたが、M2c中央部への5Giでは逆に強く促進された。この促進は内腔の高濃度Ca2+によって影響されず、内腔側のCa2+-gateが堅く閉じていると考えられる。以上の結果は、反応段階に応じてM2の各領域およびlinkerの2次構造や長さが変化することが、細胞質領域-膜ドメイン間の構造変化を介した相互応答によるエネルギー共役に必須であり、EPの異性化と加水分解、およびCa2+-gatingに重要であることを示している。
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