研究課題
本研究では、アフリカ睡眠病の薬剤標的タンパク質であるトリパノソーマのシアン耐性酸化酵素(TAO)の構造を阻害剤との複合体構造を含む様々な状態で明らかにすることによって、実用的な薬剤候補となる強力な阻害剤の開発を目的としている。以下に本件度の成果を示す。・TAOの酸化型とアスコフラノン誘導体であるAF2779OHとの複合体構造の構造精密化を終了し、それぞれ2.85, 2.6Å分解能で明らかにすることができた。このTAOの構造は、膜結合型のdiironタンパク質としては初めての例である。・TAOと別の阻害剤であるコレトクロリンBとの複合体の構造を2.3Å分解能で明らかにすることができた。これにより、より詳細なTAOと阻害剤の相互作用が明らかになった。これらの構造を比較することにより、阻害剤が結合する前は4つのグルタミン酸残基のみがdiironに配位しており、阻害剤が結合すると1つのヒスチジン残基(His165)がdiironに配位し、大きな構造変化を引き起こすということが明らかになった。また、今回使用した阻害剤AF2779OHは、トリパノソーマに感染させたマウスを完全に治癒することができることを確認しており、実用的な薬剤の候補化合物である。また、アスコフラノンと比較して、より全合成が簡単で安価に合成できる化合物がTAOの酵素活性ををアスコフラノンと同程度阻害することをを明らかにすることができた。また、その化合物とTAOの複合体の構造を2.9Å分解能で解明することができた。これらの構造情報を手掛かりとして、より安価な薬剤の開発を推進することができると考えている。
1: 当初の計画以上に進展している
結晶化が成功した当初は分解能が悪く結晶構造解析に難航するかと考えられたが、タンパク質の精製法と結晶化の手法を改良することにより鉄原子の異常分散効果を利用して構造解析に成功することができた。また、コレトクロリンBとの複合体の構造をより精度の高い2.3Å分解能で明らかにすることができた。このことにより、TAOと阻害剤とのより詳細な相互作用様式の情報を得ることができ、より強力な阻害剤の開発のための重要な知見を得ることができた。また、アスコフラノンとは別の骨格をもつ化合物がTAOの酵素活性を効果的に阻害することを見出し、その化合物との複合体の結晶構造も2.9Å分解能で明らかにすることができた。
今後、以下のような研究を計画している。・得られている多数の複合体との構造情報をもとにインシリコスクリーニングを用いてより強力な抗トリパノソーマ薬の候補化合物を決定する。インシリコスクリーニングの精度を上げるために結晶の分解能の向上にも取り組む。・TAOの酵素反応メカニズムの解明のため、TAOの還元型の結晶構造を明らかにする。また、酸素結合部位を決定するためにアジド化合物との複合体の構造を明らかにする。
該当なし
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