研究概要 |
本研究では、我々が初めて明らかにしたポリシアル酸の分子保持機能のうち、特にFGF2分子に着目し、その構造的基盤および制御機構を明らかにすることを目的とした。 本年度はポリシアル酸の担体タンパク質としてpolySia-NCAMを安定発現する細胞株を樹立し、polySia-NCAMの精製法を確立した。精製したpolySia-NCAMとFGF2との相互作用を分子間力測定装置を用いて解析したところ、polySia-NCAMのpolySia鎖のFGF2に対する親和力は10-9(M)であること、polySia鎖単独で計測した値よりも10倍程度強いことがわかった。このことは、polySia-NCAMのpolySia鎖が結合しているN型糖鎖もFGF2との結合に重要であることを意味している。加えて、FGF2のpolySia鎖への結合は、時間依存的に減少することが明らかになり、FGF2の時間依存的におこる微妙な構造変化をpolySia鎖は感知すること、すなわちFGF2の寿命を制御しうる機構の存在が示唆された。 一方、ヘパラン硫酸(HS)が発現しており、polySia鎖を発現していないNIH-3T3細胞を用いて、polySia転移酵素発現プラスミドおよびHS合成酵素siRNAを用いて、polySIa+/HS+, polySia+/HS-, polySia-/HS+, polySia-/HS-の4種類の細胞を作製し、FGF2依存的な増殖を解析した。その結果、FGF2依存的な増殖はHS依存的であるが、この増殖はpolySia鎖の存在で、消失することが明らかになった。このことはFGF2依存的な増殖がHSだけでなくpolySia鎖を介しても行われることを示唆している。またpolySia存在下での増殖に関しては、FGFRを介するErkのシグナル変動から、その制御機構としてローパスフィルターモデルが提唱された。
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