研究課題/領域番号 |
23570135
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
中井 忠志 大阪大学, 産業科学研究所, 助教 (00333344)
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研究分担者 |
谷澤 克行 大阪大学, 産業科学研究所, 教授 (20133134)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 翻訳後修飾 / 補酵素の生合成 / 結晶構造解析 / キノヘムプロテイン / ビルトイン型キノン補酵素 / ラジカル・SAMタンパク質 / 分子内チオエーテル架橋 / 酵素解媒機構 |
研究概要 |
本研究では、タンパク質の翻訳後修飾反応により形成される新規ビルトイン型キノン補酵素、システィントリプトフィルキノン(CTQ)を含むキノヘムプロテイン・アミン脱水素酵素(QHNDH)を対象として、シグナル配列の切断から、CTQや分子内架橋構造の形成、ヘムの挿入、ヘテロ三量体形成に至る多段階の翻訳後修飾反応によるQHNDHの生合成プロセスの解明を目指している。本年度の研究の成果は以下に示す。(1)遺伝子破壊法によりORF6~ORF8の必須性の検討と生化学的解析を行い、ORF6及びORF7がQHNDH生合成に必須であり、ORF6はγサブユニットのペリプラズムへの輸送を担うABCトランスポーター、ORF7はアミンによる転写活性化因子であることを明らかにした。(2)ORF2タンパク質を嫌気条件で調製し、大腸菌内や試験管内でγサブユニットの架橋形成反応を進行させることに成功した。さらに、変異型γサブユニットを用い、架橋形成にはCys及びAspまたはGluが必要でありそれ以外の残基では代用できないことを証明した。また、ORF2とγサブユニット(種々の短縮型を含む)共発現することにより、両者の間で安定な複合体が形成されることを見出し、リーダー配列が複合体形成に必須であることを明らかにした。(3)ORF5タンパク質の生化学的解析により、ORF5はγサブユニットのリーダー配列の切断を行うが触媒回転はしない言わば「使い捨てプロテアーゼ」であることが判明した。細菌においてはこのようなプロセシング酵素は非常に稀である。以上の成果のうち、(1)及び(2)はともに日本生化学会において口頭発表、(3)についてはJ. Biol. Chem.に誌上発表を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実績の概要の(1)については申請書の内容を全て達成した。(2)については、申請書の内容をほぼ全て達成するだけでなく、ORF2がγサブユニットとの安定な複合体を形成することを見出し、今後結晶化に進む上でも有用な収量増加にも成功した。(3)については、申請書では「ORF5タンパク質の生化学的解析および結晶構造解析により、触媒機構を原子レベルで明らかにする」という計画であったが、ORF5の結晶が得られなかったため結晶構造解析は実現しなかった。しかし、生化学的解析によりORF5の酵素としての新奇な性質を新たに明らかにし、誌上発表まで行った。以上の成果を総合すると、「おおむね順調に進展している」として、申し分ないと考える。
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今後の研究の推進方策 |
(1)ラジカルSAMファミリーORF2タンパク質の結晶構造解析:ORF2タンパク質の原子レベルでの反応機構解明を目指して、γサブユニットとの複合体を含むORF2タンパク質の結晶化を試みる。精製などと同様に嫌気チャンバー内で、結晶化から液体窒素への凍結保存まで行う。X線回折測定可能なサイズの結晶が生成した場合には、データ収集を行い、結晶構造を決定する。位相決定は、鉄硫黄クラスター中の鉄原子の異常分散により、容易に行えるものと期待される。最終的に、ORF2の機能解析の研究結果も総合し、鉄硫黄クラスターが関与するチオエーテル架橋形成機構の詳細を解明する。(2)試験管内反応系を用いたCTQ補酵素およびQHNDH生合成の再現:これまで構築に成功しているγサブユニット前駆体とORF2の試験管内反応系に、ORF5タンパク質を加えることで、次のステップのγサブユニット前駆体(3本のチオエーテル架橋をもち、リーダー配列はもたない)が得られるか検討する。さらに、この試験管内反応系に、単独で発現精製したαサブユニットを加え、CTQ生成におけるαサブユニット依存性を調べる。このようにして、全ての翻訳後修飾反応を試験管内で再現することで、活性をもつQHNDHの生成を検討する。(3)ORF6及びORF7の機能解析:前年度、QHNDH生合成に必須であることが新たに判明したORF6(ABCトランスポーター)及びORF7(転写制御因子)の生化学的解析をそれぞれ進める。部位特異的変異導入による機能に重要な残基の同定のほか、ORF6では輸送すると考えられるγサブユニット前駆体との相互作用、ORF7では誘導物質と予想されるブチルアミンやプロモーター領域を含むDNAとの相互作用について機能解析を進める。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度の研究費は申請書にて計上した通り、主に消耗品の購入に使用する予定である。具体的には、以下の通りである。(1)消耗品等: 酵素の精製および結晶化、部位特異的変異導入等の遺伝子操作に必要な試薬類、培養用プレート・フラスコやピペットチップ等のディスポーザブルプラスチック器具・ガラス器具等の消耗品の購入を予定している。(2)国内旅費: 国内旅費としてX線回折データの取得のためのSPring-8への出張旅費、国内学会発表のための旅費への予算の使用を予定している。(3)その他: 欧文学術雑誌への投稿に必要な研究成果投稿料に使用する。
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