研究課題/領域番号 |
23570136
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
小林 一雄 大阪大学, 産業科学研究所, 助教 (30116032)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 活性酸素 / DNA / 転写因子 / 酸化還元 / パルスラジオリシス |
研究概要 |
水銀イオンを解毒化する時に働く転写因子として発見されたMerRと同様の機能・構造を持つタンパク質が、薬物、重金属イオン、酸素ラジカルに応答する転写因子として働いていることが明らかになった。これら転写因子は共通する機構、すなわち、特異的な"coactivator"がタンパク質に結合すると、局部的にプロモータ領域DNAの相補的塩基対が解離することが知られている。酸化ストレスに応答する転写因子SoxRは、MerR familyに属し、転写制御部位に鉄イオウクラスター[2Fe-2S]を持ち、その酸化還元によって転写制御されている。鉄イオウクラスターの酸化還元により、どのような機構で分子全体へ連動して、DNAへの結合や転写の活性化や抑制を実現しているかを明らかにすることを目的として、芳香族アミノ酸(Trp、Tyr)に由来する紫外共鳴ラマンスぺクトル(UVRR)を測定した。SoxRを還元するとTrp91およびTrp98のUVRRは大きく変化し、鉄イオウクラスターに隣接するTrp91はより親水性に、Trp98はより疎水性の環境に変化した。それに対してDNA結合ドメインに存在するTyr31, 49, 56は鉄イオウクラスターの還元により変化しなかった。一方プロモーターであるDNAが結合するとTrpによるスペクトル変化が見られず、DNA結合にともなうTyrの水素結合の切断による変化が見られた。一方SoxRが活性を持つ機構については不明であった。本研究では、スーパーオキサイド が直接 SoxR のシグナルになりうるのかパルスラジオリシス法により検討した。パルスラジオリシス法を用いると、水和電子により還元され 還元型となる。また、酸素存在下では水和電子は酸素と反応してスーパーオキサイドが生成し、還元型と スーパーオキサイド反応を調べることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
従来不可能とされていた還元型SoxRとスーパーオキサイドとの反応を観測することができ、スーパーオキサイドが直接の活性化のシグナルになっていることを証明した。また紫外共鳴ラマンスペクトルによる方法でSoxRの酸化還元あるいはDNA結合による構造変化を明らかにした。
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今後の研究の推進方策 |
SoxRの鉄イオウクラスターのレドックス変化がトリガーとなって、プロモーター領域二重鎖DNAにおける局部的相補的塩基対解離の機構を明らかにする。この過程において、還元後中間体として生成するDNA-タンパク質過渡複合体をとらえることが鍵となる。レドックス部位での局所的変化からタンパク質の構造変化さらにDNAの構造変化に至る大域的な変化をナノ秒~マイクロ秒領域での時間分解分光法によりとらえる。上記目的を達成するために、転写活性型である酸化型SoxR-DNA複合体をパルスラジオリシス法あるいはRu錯体を結合したSoxRのレーザーホトリシス法によるナノ秒領域での還元により、転写不活性状態にし、その後のプロモーター領域二重鎖DNAにおける構造変化を蛍光プローブ法によりナノ秒~ミリ秒でとらえることを目的とする。X線構造解析を基にして鍵となるアミノ酸残基の変異体や、異なる配列のDNAを用いることにより、その構造変化と機能発現機構を明らかにする。
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次年度の研究費の使用計画 |
紫外可視吸収スペクトルを測定するために、分光光度計を購入する。試料を調製するために必要な薬品類、器具類 学会発表による旅費
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