研究課題/領域番号 |
23570136
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
小林 一雄 大阪大学, 産業科学研究所, 助教 (30116032)
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キーワード | スーパーオキサイド / 転写因子 / 活性酸素 / パルスラジオリシス / 一酸化窒素 |
研究概要 |
これまでスパーオキサイドが直接SoxRのシグナルとして働き転写活性を持つのか、あるいは外からの薬物によるものか不明であった。一方同様な鉄イオウクラスターを持つSoxRが種々のバクテリアにも存在するが、大腸菌と異なり酸化ストレス防御系に働かないことを申請者のグループは報告している。本研究では スパーオキサイドがSoxRの応答するシグナルになりうるのか明らかにするために, E.coli と緑膿菌 SoxRのスーパオキサイドに対する反応性にについてパルスラジオリシスを用いて検討した.その結果,スーパーオキサイドが還元型SoxRとの反応を観察することができた。またその反応速度定値から細胞内においてもスーパーオキサイドが直接SoxRの応答するシグナルとなっていることが明らかにした。それに対して緑膿菌SoxRについても同様 の反応が見られたが、その速度はE. coliの10分の1以下と大きな差が見られた。 この反応性の違いは,E. coli とP. aeruginosa におけるSoxRの生理的役割の違いを大きく反映しているとが分かった。 SoxRのNOによる活性化機構は、NOが直接鉄イオウクラスターと反応してジトロシル錯体(DNIC)を生成して転写活性を持つことが報告されている。DNICは合成モデル無機化合物を用いた研究でその生成機構が検討されているがその動力学については不明である。そこで申請者は亜硝酸イオン存在下でパルスラジオリシス法を用いることにより、NOとSoxRとの反応を調べた。その結果、鉄イオウクラスターにほぼ拡散律速に近い速度でNOが配位する過程を観測することに成功し、最終生成物としてDNICが生成されていることをESRにより確認した。このような反応は同じ鉄イオウ蛋白質であるフェレドキシンでは観測されず、NOの鉄結合にともなうSの酸化が重要であることが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究の大きな目標であった転写因子に結合したDNAの構造変化を追跡する研究については 蛍光プローブ法により大きな進展が得られ、特にその構造変化が中央部分のみに局在化していることが分かった。一方一酸化窒素による活性化機構についてはパルスラジオリシス法により、その反応中間体をとらえることに成功した。
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今後の研究の推進方策 |
E. coliとP. aeruginosa SoxRのスーパオキサイドに対する反応性の違いを明らかにすることを目的として、鉄イオウクラスター周辺のアミノ酸残基に注目し、異なるアミノ酸をそれぞれに対応するアミノ酸に置換した変異体を作製する。パルスラジオリシス法でスーパオキサイドとの反応速度を観察する。 SoxRのみC2とC3の間のアミノ酸の数が1つとなっており、この違いが鉄イオウクラスターの反応性と関係していると考えることができる。そこで、SoxRのC2とC3の間のアミノ酸数を増やした変異体を作製し、NOとの反応効率の変化を検討する。本研究では、転写不活性な還元型SoxRに結合しているDNAの結合様式を明らかにするために、以下の研究を行う。1)DNAの相補鎖の解離の追跡法として、グアニン (G)-シトシン (C) ペアの解離により蛍光強度が増加するプローブであるPyrrolo-C (C*) を用いる。またAminopurine (A*) も同様にチミン (T) と水素結合すると消光される。本研究では、DNA-SoxR複合体のX線構造解析により、相補的塩基対が解離していることが判明している塩基にC* あるいはA* を導入し、その蛍光スペクトルを測定する。さらに還元剤を添加しSoxRを還元させ、その蛍光強度の変化を見る。2)転写不活性なSoxRにおけるDNA結合様式を明らかにする手法として、鉄イオウクラスタードメインを欠損した変異体 を作成する。本研究ではSoxRの大量発現およびDNA-SoxRの複合体のX線構造解析を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
本研究では試料調製に必要な薬品類、器具等の消耗品および学会発表のための国内外の旅費に限られる。
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