バクテリア内に存在し、薬物や重金属、酸素などの種々のストレスに対して応答し、転写活性を持つMerRファミリーという転写因子群が存在する。このファミリーの大きな特徴は、ストレスがかかるとタンパクの構造が変化し、それに伴って結合したプロモーターDNAが歪んだ構造をとることである。大腸菌内にはMerRファミリーに属し、酸化ストレスに応答して転写活性を持つSoxRという転写因子が存在する。SoxRはそのセンサー部位に[2Fe-2S] クラスターを持ち、この可逆的な一電子酸化還元によって転写制御されている。 SoxR-DNA複合体の酸化型の構造は、プロモーターDNAが、他のMerRファミリーと同様に歪んだ構造をとっている。それに対して還元型SoxRは結合したDNAの構造変化については不明である。本研究では、DNA鎖中に蛍光プローブとしてアデニンを2-Aminopurine (2AP) 、シトシン (C) をPyrrolo-C とそれぞれ置き換え、SoxRの酸化還元による蛍光強度の違いを観察した。プロモーター配列の中心部 (A1、A1’) に2APを導入したDNAにおいて、還元剤であるチオナイトを加えると蛍光強度は大きく減少し、362 nmから370 nmへピークシフトが見られた。さらに、[2Fe-2S]クラスター結合ドメインを持たずプロモーターDNAへの結合能は変わらないSoxRの変異体 を用いて同様の実験を行ったところ、ジチオナイトを入れる前後で蛍光スペクトルには変化が見。以上の結果より、SoxRの鉄イオウクラスターの酸化還元によって、プロモーターDNAの特に中心部で大きな構造変化が起こり、SoxRの転写活性の制御においてこの中心部における構造変化が重要であるということが示唆された。
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