タンパク質翻訳開始因子複合体は、単に生物の基本的生命活動にとって重要なものであるだけでなく、新規抗生物質やウイルスやがんに対する新規薬剤開発のターゲットとしても近年注目を集めている。本研究が特に注目しているのは、翻訳開始因子であるeIF1、eIF3c、eIF2及びeIF5によるリボソームの翻訳開始地点の認識から、実際に翻訳が開始される間の情報伝達機構である。本研究では、eIFの立体構造解析を中心に、遺伝的・生化学的解析をもとにその分子機構を明らかにすることを目的に研究を進めた。 本研究ではまず、eIF1の発現系の構築及び精製を行い、eIF1の立体構造をNMR法により決定した。しかし、eIF3cに関しては、その試料の不安定さからシグナルの帰属が完全にできず、立体構造決定には至らなかった。一方で、eIF1とeIF3c結合に関わる部位の同定を試みたところ、eIF1におけるeIF3cとの相互作用部位は広範囲にわたっていることが明らかになった。またeIF5との相互作用部位の同定も試みた。しかしながら、eIF1とeIF5の相互作用は弱く、NMRによる解析だけでは明確な同定までいたらなかった。そこでeIFの部位特異的変異体を調製し、変異体を用いたNMR測定を行うことで、eIF5との相互作用部位の同定に成功した。eIF1へのeIF3c及びeIF5の相互作用部位が明らかになったことで、これまで酵母を用いた遺伝的解析により漠然と推定されていたeIF1を中心とした翻訳開始の分子機構が詳細に説明できるようになった。今後、さらなる生化学的解析を行い、本研究で提唱されたタンパク質翻訳開始の分子機構の裏付けを行い、論文投稿を行う予定である。
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