研究概要 |
基本転写因子は、RNAポリメラーゼIIを転写開始領域に正しく位置づかせ活性化しメッセンジャーRNAを合成開始可能な状態にするまでの一連の作業を担う重要なタンパク質である。現在、RNAポリメラーゼIIと基本転写因子から構成される超分子複合体(転写開始装置)の立体構造のモデル化が世界中で進められている。 基本転写因子の一員のTFIIEは、天然変性領域を広く含む等の問題から結晶化が障害となりX線結晶構造解析の見通しは全く立っていない。そこで、本研究では溶液中の立体構造を原子レベルで決定できるNMR法を用いて全体構造の解明を目指す。TFIIEはαβ異種二量体で分子量が約8万4千のため分子量に上限をもつNMR法にとって挑戦的研究となるが、得られる成果は立体構造に基づいた転写開始機構の解明に多大に貢献することが期待される。 大腸菌の共発現系から調製した13C,15N標識、及び2H,13C,15N標識全長TFIIEαβ複合体を用いて、種々の多次元NMR実験を行った。シグナルを帰属後、NOEシグナルから水素原子間距離情報を収集した。重水素交換実験から水素結合を、帰属した化学シフト値から主鎖二面角を見積もった。これらを制限情報としXPLOR-NIHプログラムを用いてシュミレーティッド・アニーリング法により立体構造を計算した。以上の常法に加え、立体整列同位体標識(SAIL)した試料を利用し更なる構造情報を得た。予想されたようにTFIIEは広く天然変性領域を有していたが、その正確な領域を特定した。TFIIEαのC末領域には、基本転写因子TFIIHを転写開始複合体に呼び込む際に重要な役割をもつドメインがあるが、全長TFIIEαβ複合体中のその構造を高分解能で決定した。また両者の相互作用をNMR法で解析し相互作用部位を同定した。構造を形成している他のドメインについては現在解析中である。
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