研究課題/領域番号 |
23570147
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研究機関 | いわき明星大学 |
研究代表者 |
竹中 章郎 いわき明星大学, 薬学部, 教授 (80016146)
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キーワード | 抗HIVレクチン / アクチノヒビン / X線構造解析 / タンパク質の立体構造 / HMTG結合機構 |
研究概要 |
HIVはその表面から突き出たタンパク質gp120の表面を覆う高マンノース糖(HMTG)をヒト細胞のタンパク質に接触させることによって感染を開始するが、蛋白質アクチノヒビン(AH)はHMTGに結合して感染を阻止すると考えられている。本研究の目的はAHがHIVのHMTGに結合する特異な認識機構を明らかにすることである。前年度はHMTGの3本に分岐した糖鎖の先端部位にあるα(1,2)マンノビオース(Man2)にAHが結合した立体構造を高分解能のデータを用いて高精度に決定することができたが、その結晶構造を詳しく調べると、結晶の空間群は見かけ上はP213であるが、正確にはそれよりも低い空間群P212121であり、近似的な3回回転対称をもつAH分子が120度ごとに回転しながら乱れているために、空間群対称が上昇していることを明らかにした。このような現象はタンパク質結晶では世界最初の例である。この乱れを考慮して構造を精密化することにより、正確な立体構造を解析することに成功した。その結果から、3個のMan2分子がAHの3個の結合ポケットにそれぞれ独立に結合し、各ポケット内ではコンフォメーションがコの字形に固定されたMan2分子が水素結合と疎水性相互作用によって厳密に認識されていることが判明した。以上の結果をまとめた論文は、高インパクトファクター(12.62)をもつ学術雑誌(Acta Crystallogr. D)に掲載され、新聞紙上でも紹介された。一方、成熟型AHとMan2との複合体の2種類の結晶構造を解析することに成功した。その一つをまとめた論文もActa Crystallogr. D誌に受理された。ヨーロッパ結晶学会議ECM27(ベルゲン、ノルウェイ)、日本結晶学会年会CrSJ2012(仙台)、アジア結晶学会議AsCA12(アデレイド、オーストラリア)でも発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度は、まず計画通りAH-Man2複合体の立体構造を確定するという目標を達成し、論文発表することができた。それは、タンパク質結晶の空間群対称が上昇するという現象の発見を伴っていて、広くタンパク質X線結晶学に対して新しい知見を与える成果であった。一方、成熟型AHを用いたAH-Man2複合体の結晶化からは種々の条件における結晶多形が見出され、それらをX線解析することで、AH分子が3個のMan2に結合する構造を解明しただけではなく、さらにAH-Man2複合体が集合して層状(2次元)のクラスターを形成することを見出した。その形成様式には種々の特徴があり、それらを組み合わせると、HIV-gp120の表面に密集して局在するHMTGに群がって結合するAH分子を連想させる。このようなAHの特徴は、AH分子同士の協調的効果を示唆するものである。実際に2分子のAHをPEGで連結した二量体のHMTG結合能は相乗的に増大することが分かっているので、結晶構造から得たAH-Man2複合体同士の接触様式の知見は、より結合能が高い二量体型AHをデザインするのに有力な構造基盤になると期待できる。本研究では成熟型AHとMan3、Man9あるいはgp120との複合体の結晶化も進めている。
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今後の研究の推進方策 |
AHとα(1,2)マンノトリオース(Man3)との複合体結晶のX線データを収集できたので、立体構造を決定し、Man2との複合体の立体構造と比較することにより、第3番目のMan残基の結合様式を明らかにするなど、平成24年度の計画が順調に進展するものと期待できる。また、今年度のMan2との複合体結晶で見出したように、Man3との複合体形成においても、AH分子同士の協調的効果を確かめる。AHのポケット近傍に存在すると考えられるHMTGのD3鎖結合部位の存在を確かめるために、α(1,3)結合を有するマンノトリオースMan-α(1,2)-Man-α(1,3)-Manとの複合体の立体構造も明らかにする。Man9やgp120との複合体のX線解析にも挑戦する。一方、AHのクラスター効果を最大限に引き出すために、二量体や三量体AHのAH同士をつなぐリンカーの長さを加減することで結合能を評価し、より効果的なAH誘導体を得ることができるものと確信している。
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次年度の研究費の使用計画 |
研究費の一部が次年度に使用することになった経緯と理由:AHとgp120の複合体結晶の調製については、試料のgp120が少量であるため、微量スクリーニングを得意とする遺伝学分子細胞生物学研究所IGBMC-CEBGS(France)のJean Cavarelliグループの協力を得て実験を行った。結晶化条件を種々検討した結果、いずれの条件でもgp120が複数の会合状態をとる傾向があることを見出した。その原因を試料の調製元で調べた結果、組換体の遺伝子に突然変異が生じていることが判明したので、結晶化作業を中断し、組換体の再構築を行うことになった。この理由により研究予算の一部を次年度に少し繰り越すことになった。 次年度の研究費は繰越額を加えると、使用計画の予算配分は以下の通りである。設備備品費(0千円)、消耗品費(627,387円)、旅費(540千円)、謝金・その他(50千円)。
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