研究概要 |
抗HIVレクチンのアクチノヒビン(AH)は、ヒト細胞へのHIVの感染を阻止できる可能性がある。このAHは、HIV表面のタンパク質gp120に結合した多数の高マンノース糖(HMTG)を標的とし、その3本の糖鎖(D1, D2, D3)の、D1鎖に強く、D3鎖に弱く、結合すると考えられている。本研究では、D1,D2,D3に共通のMan-α(1,2)-Man(Man2)と、標的であるD1鎖のMan-α(1,2)-Man-α(1,2)-Man(Man3)が、AHにどのように特異的に結合するのか、その構造的要因を解明する為に、AHとMan2およびAHとMan3の複合体のX線解析を行った。まず、AHの調製法を再検討した結果、AH産生菌の培養期間を通常の3日間から20日間に変更することで、AHのN末端に付加されたシグナルペプチドを完全に切除できることを発見した。この調製法採用することによって、AHの結晶化が容易に再現でき、AH-Man2複合体では3種類の、AH-Man3複合体では1種類の単結晶を調製することに成功した。AH-Man2結晶からは、3回回転対称で繰り返される3個の糖鎖結合部位それぞれに、コの字型コンフォメーションをもつMan2が独立に結合することを明らかにした。また、3種類の結晶構造はいずれも結晶学的に非常に特異な様式で構築されていることも解った。これらをまとめた論文2報が学術雑誌Acta Cryst.誌D(IF=14,1)に掲載され、同時に雑誌の表紙絵図として採択された。AH-Man3のX線解析からは、D1鎖の特異な認識には、多くの疎水的作用が関与している事実を発見し、D2とD3鎖を含むHMTGの結合様式を推定することができた。この論文もActa Cryst.誌Dに投稿した。114残基からなるコンパクトなAHが3個のHMTGに効率よく結合すること、さらにAH分子同士の相互作用による集団的結合能を有することは、AHが抗HIV薬剤として開発するに値するきわめて有望な分子素材で有る事を示すものである。
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