研究課題
細菌が生体内に侵入すると,宿主は液性または細胞性の免疫応答によりこれを排除する。一方で,細菌も宿主環境を感知して遺伝子発現を変化させ,宿主の攻撃を回避しようとする。本研究では,感染モデル系を利用して,宿主内で発現変動する細菌遺伝子を同定し,その宿主免疫に対する働きを明らかにすることを目的として計画された。当該年度は,宿主にキイロショウジョウバエ,細菌に黄色ブドウ球菌および大腸菌を用いた,敗血症モデルを構築して,遺伝学的手法および生化学的手法により以下の解析を行った。1)ショウジョウバエ食細胞による黄色ブドウ球菌の貪食機構 ショウジョウバエヘモサイト(哺乳類マクロファージに相当)は,黄色ブドウ球菌を貪食し,これはハエの生存に必須である。貪食を規定する食細胞の受容体と細菌表層のリガンドを遺伝学的にスクリーニングし,生化学的手法でその寄与を検証した。その結果,ヘモサイトのインテグリンが,黄色ブドウ球菌細胞壁のペプチドグリカンと結合し,細菌貪食が誘導されることが判明した。2)宿主内で発現変動する大腸菌遺伝子の検索 大腸菌遺伝子のプロモーター制御下に緑色蛍光タンパク質を発現する大腸菌ライブラリーを用いて,ハエ体腔注入時に蛍光強度が増減する遺伝子プロモーターを解析した。細菌遺伝子発現を担う,二成分制御系遺伝子約60種類のうち,宿主内で活性増大する約10種類を見いだした。これらの中には,細菌病原性発揮との相関が示されているものもあるが,感染免疫との関係が未だ報告されていない種類も含まれるとわかった。
2: おおむね順調に進展している
平成23年度に挙げた2つの項目について,まず,黄色ブドウ球菌の貪食を担う食細胞の貪食受容体が同定された。また,食細胞に認識されるリガンドとなる,細菌の細胞壁成分が遺伝学的解析と生化学的解析により判明した。一方,宿主内で活性亢進する大腸菌遺伝子の解析については,レポーターを利用したアッセイにより,二成分制御系因子の遺伝子プロモーターのスクリーニングを終えた。これらのことより,申請書に記載した研究目的はほぼ達成されていると判断できる。
申請書に記載した計画に沿って,引き続き宿主内で発現変動する細菌遺伝子の解析を続ける。これまではレポーターのシグナルを個体全体を目視定量して判定を行ってきた。この検出方法に加えて,マイクロアレイ解析や蛋白質レベルの解析,データベースを活用した手法も加えることを検討する。これらの方法で得られた結果から,予想される遺伝子の感染免疫における役割を多面的に解析することが可能となる。
細菌の遺伝子発現を解析するための試薬類,培地,および培養器の購入にあてる。また,モデル宿主の飼育に必要な餌,飼育用バイアル,試薬類を購入する。
すべて 2012 2011
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件) 学会発表 (7件) 図書 (1件)
J. Biol. Chem.
巻: 287 ページ: 3138-3146
doi:10.1074/jbc.M111.277921
Develop. Growth Differ.
巻: 53 ページ: 149-160
DOI:10.1111/j.1440-169X.2010.01224.x
巻: 286 ページ: 35087-3509
doi:10.1074/jbc.M111.277343