哺乳類の組織には、カルノシン(βーアラニル-L-ヒスチジン)をはじめとする数種類のヒスチジンジ含有ジペプチドと呼ばれるジペプチドが存在する。カルノシンは筋肉と脳で数mM~数十mMという高濃度で存在するペプチドで、抗酸化作用やヒスチジン貯蔵作用などを持つことが報告されており、骨格筋の運動や神経伝達物質の合成などに不可欠の働きをしていると考えられるが、不明な点も多く残されている。 以前よりカルノシンの代謝に関しては、カルノシンが脳と筋肉でカルノシン合成酵素によって合成され、種々の臓器に存在する特定のジペプチダーゼ(CN1、CN2)で分解されることが知られていたが、近年、合成酵素と分解酵素が同定され、カルノシンの代謝が分子的に解析できるようになった。我々ば、カルノシンを分解する酵素の一つであるCN2を同定し、その構造と酵素反応機構、生理機能について、CN1と比較しつつ解析を進めてきた。本年度(最終年度)において、これまでCN2に関して不明であった点の一つである基質特異性について種々の条件下で再検討し、CNDP2がより生理的条件に近い測定条件においてカルノシンを分解するとともに、特定の数種類のジペプチドに特に高い活性を示すことが明らかになった。これらのペプチドの生理的意義については不明であり、今後さらに解析をすすめることを考えている。 本研究課題では前年度までに、CN2がマウスにおいて脳以外に、腎臓の近位尿細管、及び小腸上皮細胞で高レベルで発現していることを明らかにしており、本年度の結果を考え合わせると、マウスではCN2が基質特異性の異なるCN1などの複数の酵素とともに、小腸における蛋白質消化の最終段階、および腎におけるペプチド再吸収の最終段階において、カルノシンならびにその他の種々のジペプチドの分解を担っていることが示唆された。
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