研究課題/領域番号 |
23570165
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
有賀 洋子 (木股 洋子) 大阪大学, たんぱく質研究所, 助教 (60255429)
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研究分担者 |
長谷 俊治 大阪大学, たんぱく質研究所, 教授 (00127276)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | フェレドキシン / 光合成電子伝達 / 立体構造解析 |
研究概要 |
内容:本年度の主要な実施目標であるFd-FNR架橋複合体のX線結晶構造の決定に成功した。様々な部位でFdとFNRとを架橋した複合体は、Fd:FNR間の電子伝達活性から3つに大別され、そのうち2つのグループで代表的な複合体のX線結晶構造を得た。予想外に、いずれもFdとFNRのドメインが分子間でスワッピングしており、一方はダイマー間で互い違いに、もう一つはマルチマー間で連続してスワップするポリマー構造をとった。これらのFd:FNR間の電子伝達は分子内で行われると示唆されていたため、得られた分子間ドメインスワップ構造が結晶化パッキングによるアーティファクトである可能性が考えられ、溶液中でもスワッピングが起こるかを、動的光散乱法(DLS)、ケミカルクロスリンク、NMR解析により検証した。その結果、これらの分子はタンパク質濃度に依存して溶液中でもドメインスワップすることを見いだした。FdとFNRの連結様式の異なる2種のFd-FNR架橋複合体の間で、そのタンパク濃度依存性は大きく異なった(現在論文作成中)。意義:天然でドメインスワップした分子構造は現在60以上知られている。また、FdとFd依存酵素(シアノバクテリアの亜硝酸還元酵素)が天然で連結しているものも見つかっており、Fdからの電子分配が、タンパク質濃度という因子によっても制御される新たな可能性を示した。重要性:近年生体内で、マルチドメインを持つ様々なタンパク質においてスワッピングを行う例が見つかり、酵素活性などの機能制御や病的なアミロイドーシスなどの発症と関連して、その生理的な重要性が指摘されている。しかし、生理的条件下でのスワッピングのメカニズムに迫る詳細なカイネティクスは殆ど調べられておらず、我々が得ている様々な連結様式を持つFd-FNR架橋複合体は、そうしたカイネティクスを詳細に調べる為の格好のモデルとなると考える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、葉緑体中でのFdとFd依存酵素間のタンパク質相互作用に基づく電子分配メカニズムを解明することを目的としている。本年度はまず、多種多様な電子伝達活性を示すFd-FNR架橋複合体の構造的基盤を明らかにするために、それらの立体構造解析を行った。その結果、電子伝達活性の大きさにより3つのグループに大別したうち、2つのグループで代表的な架橋複合体のX線結晶構造を得る事ができた。そしてこれらは予想外にもドメインスワッピングによるダイマーやマルチマー構造を示す物であり、これらが分子内のFd-FNR間電子伝達のみならず、分子がおかれる環境によってはドメインスワッピングによる分子間電子伝達を行う可能性が提示された。更に、これらの分子の溶液中での物理化学的性質の解析により、ドメイン構造を成す分子のタンパク質の電子伝達様式について、タンパク質濃度に依存した可逆的なドメインスワッピングを介した新規な電子伝達制御のメカニズムを提唱し、新たな研究展開を促す事になったと考える。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の研究で、Fd-FNR架橋複合体が、連結する部位やそのタンパク質濃度に応じてドメインスワッピングすることが示された。近年様々なタンパク質で生体内でのドメインスワップの現象が報告されているが、その生理的意義やオリゴマー化のメカニズムは未だ殆ど調べられていない。今回Fd-FNR架橋複合体においてタンパク質濃度に応じたスワッピングが起こる事が示されたが、その詳細なカイネティクスを調べる事がこれらのスワッピングメカニズムの解明、ひいては電子伝達分配制御のメカニズムの解明にも必須と考えられた。従って、これらFd-FNR架橋複合体の分子間の結合のカイネティクスや熱力学的な解析を種々の物理化学的な解析法を用いて行っていきたい。さらに、生体内の様々なFd依存酵素が存在する条件下で、Fdからの競争的な電子分配がどのように制御されているかという観点から、FNR以外のFd依存酵素(亜硝酸還元酵素、亜硫酸還元酵素など)存在下でのタンパク質間相互作用、電子伝達のkinetics を詳細に解析して行きたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度使用額が生じた状況に付いては、今回2種のFd-FNR架橋複合体の結晶化条件の検討が予定より速やかに進んだため、結晶化操作の為の高価な器具の多くは、常備されていたストックでまかなうことができたのが理由である。今後は、更なる複合体の構造解析やその他の物理化学的解析のためのタンパク質の大量調整や、それらの構造解析、NMR解析を行う為の消耗品に要する、申請書に記載した研究費が必要となる。
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