研究課題/領域番号 |
23570165
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
有賀 洋子(木股洋子) 大阪大学, たんぱく質研究所, 助教 (60255429)
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研究分担者 |
長谷 俊治 大阪大学, たんぱく質研究所, 教授 (00127276)
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キーワード | フェレドキシン / 光合成電子伝達 / 電子分配 |
研究概要 |
1. 前年度得られたフェレドキシン(Fd)とFd-NADP+還元酵素(FNR)の部位特異的架橋複合体の立体構造と電子伝達効率の知見に基づき、更に目的を特化した架橋複合体をデザイン作製し、電子伝達機能解析を行った。 1)FdとFNR間の架橋による近接効果と静電的引力の電子伝達能への寄与を調べるため、相互作用変異を持つFdとFNR との架橋複合体を作製した。その結果FNRとのKmが野生型Fdより10倍高い相互作用変異Fdは、FNRと部位特異的架橋することにより野生型架橋複合体の8割まで電子伝達効率が回復することがわかった。 2)FdとFNR間の距離と電子伝達効率の関係を調べるため、様々なリンカーの長さを持つ-SH基クロスリンカーを用いて部位特異的な架橋複合体を作製した。その結果リンカー距離が8~18オングストロームの間では電子伝達効率は有意には落ちない、つまり近接効果が保たれる範囲であることがわかった。 更に1)の変異体と併せて、複合体形成や電子伝達における近接効果、静電的相互作用(長距離間引力)の寄与について定量的な解析を行っている。 2. Fd と種々のFd依存酵素群への電子分配を制御する構造因子を見いだす目的で、今まで殆ど調べられていないFdの酸化還元中心近傍にある保存された疎水性アミノ酸残基の種々の変異体を作製し、Fd依存酵素群との電子伝達活性を調べた。その結果FNRと他の依存酵素である亜硫酸還元酵素(SiR)との間で、1残基の様々な変異が電子伝達効率に与える影響が大きく異なっており、これらの酵素でFdとの電子伝達メカニズムの違いが示唆されると共に、これらアミノ酸残基が電子分配バランスの制御に関与すると考えられた。 3. 前年度得たFd-FNR架橋複合体の立体構造と溶液中での濃度に依存した存在状態変化(オリゴマー化)について更に詳細な解析を行い、論文発表した(BBRC印刷中)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実績の概要に述べたような静電的相互作用の長距離分子間引力に対する影響は、理論上では議論されているものの、実験的な証明はなされていないが、今回の我々の系によってそれを定量的に解析しうると考えられ、その予備的な知識が得られた。また、今まで調べられていないFd酸化還元中心近傍の1つのアミノ酸残基が依存酵素群への電子伝達に対して異なる役割を持ち、電子伝達効率の制御に関わりうることを示した。これらの結果は、本研究で目的としている、葉緑体でのFdとFd依存酵素間の蛋白質相互作用に基づいた電子分配制御の解明に重要な要因を供給すると考える。
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今後の研究の推進方策 |
本年度までの研究で、Fd から依存酵素群への電子分配制御メカニズムの解明に寄与する、Fd-FNR架橋複合体の立体構造とその溶液中でのふるまい、Fd/FNR間の複合体形成や長距離間引力に関わる因子(静電的相互作用、距離)についての知見、Fdと他の依存酵素群との電子伝達メカニズムの違いに関わるアミノ酸残基の情報が得られた。来年度はこれらの知見をもとに、更に電子分配様式を変化させうる目的に叶ったFdとFNR及びSiRなどの架橋複合体をデザイン、作製し、それらの電子伝達効率や、他の依存酵素への電子分配様式への影響を解析する。今までの人工的なin vitro電子伝達解析に加え、よりin vivo条件に近い葉緑体の系(単離チラコイド膜及びストロマも加えた系)での電子分配様式を解析し、その影響を評価する。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度使用額が生じた理由については、葉緑体をとるために購入した植物育成用装置のオプション部分(LED照明ユニット)が予定より減額して設置できたことなどによる。 翌年度分として請求した助成金は、引き続きFd及びFd依存酵素群及びそれらの変異体を大腸菌で大量発現、精製する為の培地や試薬、担体などと、高価なmutagenesis用キット、構造解析のための器具や消耗品、高価な市販のクロスリンカーなどに要する。また、次年度に成果を発表する機会も増すことが考えられるので、そのための費用(旅費、論文投稿費など)を請求した。
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