本研究は、光合成電子伝達系の末端に位置するモバイル電子キャリアーであるフェレドキシン(Fd)からパートナー蛋白質群への電子分配制御のメカニズムの解明を目的とし、蛋白質間架橋や相互作用変異体を用いたin vitro及びin vivoでの電子伝達や相互作用制御の解析を行った。 23年度は主要な課題であった2種類のFd-FNR架橋複合体のX線結晶構造を決定し、予想外にいずれもFdとFNRのドメインが分子間スワッピングしていた。更にこれらが蛋白質濃度に依存して溶液中でもスワップすることを見いだし、新規な相互作用制御様式の可能性を提唱して翌年度にかけて論文発表した。これに基づきFdとFNR間に様々なリンカーを導入して両者間の距離と電子伝達効率の関係を調べた結果、距離が8~18オングストロームの間では電子伝達効率は有意には落ちず、近接効果が保たれることがわかった。更に相互作用変異体を用いた同様の解析から、近接効果と静電的引力の電子伝達に対する寄与について定量的な知見が得られた。 25年度はFdパートナー蛋白質群への電子分配を制御するin vivoでのメカニズムへの知見を得るため、単離葉緑体における蛋白質群の存在様式解析を行った。Fdパートナー蛋白質を含む3つの葉緑体内窒素同化系酵素で、各酵素に特有な高次複合体の存在を見いだし、その解離会合の制御を解析した成果を論文発表した。それと共に、26年度にかけてin vitro系でFdと依存酵素の蛋白質間の相互作用の熱力学的解析を行った結果、これまで両者の結合に重要とされていた静電的相互作用に加え、酸化還元中心近傍の疎水領域の残基が結合の強さや結合配向のfine-tuningに重要なことを示した。そしてこの残基の電子伝達や結合への寄与がパートナー蛋白質によって異なることから、溶媒環境等の状況に応じた電子分配制御の可能性が示唆され、その成果を投稿した。
|