研究課題/領域番号 |
23570166
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研究機関 | 自治医科大学 |
研究代表者 |
多胡 憲治 自治医科大学, 医学部, 講師 (20306111)
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キーワード | 低分子量G蛋白質 / 発がんシグナル |
研究概要 |
正常細胞ががん化する過程における、シグナル伝達系はこれまで多くの研究者によって研究されており、例えば低分子量GTP結合タンパク質(低分子量G蛋白質)Rasによる細胞の細胞の増殖、生存シグナルの活性化などが明らかにされている。κB-Rasは転写因子NF-κBを阻害するRasファミリーの一つとして同定された。これまでに私達はκB-Rasが、がん遺伝子Ras (G12V) を起点とした発がんシグナルにおいて促進的な役割を担っていることを見出した。興味深いことにこのとき、κB-RasはGTP結合型である必要があり、GDP結合型κB-Rasには発がんシグナルに対する影響を示さないことも明らかになった。また、κB-Rasを介した発がん機構を明らかにするため、私達はTAP法 (Tandem Affinity Purification 法) を用いて、κB-Rasの蛋白質複合体を精製し、質量分析法によりκB-Ras結合分子を同定した。その結果、TRB3、SmgGDS (Rap1GDS) およびDDB1を同定した。TRB3はRas (G12V) による発がんシグナルに対して抑制的に作用するのに対して、DDB1はむしろRas (G12V) による形質転換能を促進するという逆の効果を示した。κB-Rasはこれらの結合分子に対する機能制御を介して、Ras (G12V) による発がんシグナルに関わっている可能性が考えられた。はじめ、私達はκB-RasがTRB3によるがん抑制能を解除するのではないかと予想したが、それを支持する実験結果は得られなかった。むしろ、TRB3はκB-Rasによる形質転換促進効果を抑制することが明らかになり、TRB3はκB-Rasの抑制分子である可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究により同定されたκB-Ras結合タンパク質のうち、TRB3、DDB1についてはκB-Rasとの相互作用が確認された上、Ras (G12V) によるマウス線維芽細胞の形質転換に深く関わっていることも明らかになった。一方でTRB3による発がんシグナル抑制の分子メカニズムは未だに解明されておらず、また、κB-Rasの結合タンパク質の中にκB-Rasの下流因子であるものがあるかどうかも確認できていない。しかしながら、TRB3がκB-RasのSUMO化を促進する事により、κB-Rasの機能を抑制している可能性が示唆されている。以上のことから、現在まで本研究は概ね計画通りに進行していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに、κB-RasがRas (G12V) 発現細胞の形質転換に必須であることは明らかになったが、その分子機構は不明な点が多い。今回、Ras (G12V) によるマウス線維芽細胞の形質転換に影響を与えるTRB3とDDB1についてκB-Rasとの機能的な関連性を明らかにすることにより、κB-Rasがどのように発がんシグナルに関わっているのかを明らかにしていくことを計画している。とくに、TRB3によるκB-RasのSUMO化の促進メカニズムを明らかにすることで、TRB3の発がん抑制能の解明をめざし、研究を行う。さらに、既に樹立されているヒト由来腫瘍細胞株でとくにRas遺伝子に変異を有するものに関して、κB-Rasの関与を明らかにすることをめざし、解析を行う予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度も引き続き、各種κB-Ras結合タンパク質を過剰発現、あるいはノックダウンした細胞株を樹立し、シグナル伝達機構の解析を行う。さらにこれらの細胞株を用いて軟寒天培地を用いたコロニー形成アッセイを行い、各種κB-Ras結合タンパク質の発がんシグナルへの関与を明らかにする。また、これらの解析が順調に進行した場合には、ヌードマウスを用いた生体内における腫瘍形成能の評価を計画している。これらを考慮し、分子生物学的試薬代として30万円、動物購入・飼育代として30万円を使用する ことを計画している。また、同定分子の特異的抗体の購入のために、一般試薬代として30万円を使用することを計画している。解析に はすべて培養細胞を用いるため、プラスチック器具代および細胞培養用試薬代として40万円を使用する予定である。
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