κB-Rasの発がんシグナルにおける役割を解明するため、NIH-3T3細胞を用いて、Ras (G12V)による形質転換能に対する影響を検討した。κB-Rasの強制発現は Ras (G12V)による形質転換能を促進することが観察された。一方、RNA干渉法による内在性κB-Rasの発現抑制は、Ras (G12V) による形質転換を顕著に阻害した。κB-Rasの発現抑制は、Ras (G12V) によるプロテインキナーゼmTORC1の活性化を阻害していた。κB-Rasを介した発がん機構を明らかにするため、私達はκB-Rasの蛋白質複合体を精製し、質量分析法によりκB-Ras結合分子の同定を試みた。その結果、細胞の生存、増殖シグナルなど様々な生理機能に関わることが報告されている小胞体(ER)ストレス関連蛋白質TRB3 (Tribbles-Homologue 3)、SmgGDSおよびDDB1などを同定した。そこで、次に得られたκB-Ras結合蛋白質のうち、TRB3とDDB1のRas (G12V) による形質転換能への影響を検討した。TRB3はRas (G12V) による発がんシグナルに対して抑制的に作用するのに対して、DDB1はRas (G12V) による形質転換能を促進する効果を示した。TRB3を過剰発現すると、κB-RasのSUMO化が促進されることが明らかになった。SUMOとκB-Rasの融合蛋白質はRas (G12V)による形質転換とmTORC1の活性化を阻害した。以上の結果から、κB-Rasが細胞の形質転換に重要な役割を担うことと、その結合蛋白質であるTRB3がκB-RasのSUMO化を促進する新しいタイプのがん抑制遺伝子産物であることが明らかになった。
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