研究課題
ヘムは酸素運搬、ミトコンドリア呼吸など生体に必須の補欠分子として働くが、過剰なヘムが存在すると細胞毒性を示す事が知られている。しかし、ヘムは赤血球分化の過程で細胞内に数mMも蓄積されるが、この際のヘム毒性の回避機構については不明であった。我々は独自のアフィニティ精製技術を応用して、ヘムに選択的に結合するタンパク質群の網羅的な探索を行っており、いくつかの新規ヘムタンパク質を同定している。この中で、ヘムの赤血球分化作用に関わると考えられる新規ヘム結合タンパク質としてHSP27を同定した。HSP27は、細胞内で800kDa以上の大きなホモ多量体構造として存在し、細胞防御作用や細胞分化など様々な生体反応に関わると考えられている。しかし、HSP27の機能制御機構は明らかになっておらず、既知のヘム結合モチーフも存在しないためその結合様式も不明である。本研究では、ヘムがHSP27と結合してその多量体構造を直接解離させる事を新たに見出し、これがシトクロームcと結合してそのアポトーシス誘導作用を阻害して細胞死を抑制することが明らかとしている。さらに、培養細胞またはゼブラフィッシュ発生における赤血球分化誘導系において、HSP27の発現をノックダウンすると分化誘導の抑制と顕著なアポトーシス性の細胞死が見られることから、HSP27は赤血球分化における細胞の生存に必須である事が分かった。現在、HSP27の発現を薬剤誘導性に抑制出来るHSP27ノックダウンマウスの作成し、マウスHSP27を介した赤血球分化における作用の検証を行っている。この結果、HSP27ノックダウンにより、赤血球形成の始まる胎生期において成熟異常による胎生致死となり、また成体においても顕著な赤血球減少が認められた。このようにマウス個体レベルにおいても、HSP27は赤血球形成に必須な働きを担う事を明らかとしている。
2: おおむね順調に進展している
研究計画2年目の今年度は、HSP27を介したヘムによるタンパク質レベルの制御を明らかとし、細胞レベルでこの作用が赤血球分化に重要な働きをする事を見出している。さらに、ドクソサイクリン誘導性に一過的にHSP27発現を抑制出来るHSP27ノックダウンマウスを用いて、マウス個体レベルでの赤血球分化におけるHSP27の役割を検証している。この結果、赤血球形成の始まる胎生期(E12)において成熟異常による胎生致死が認められた。また、成熟個体におけるノックダウンでも、生体の赤血球数の減少が認められるとともに、顕著な血小板減少も見られた。これらの結果から、やはりHSP27は赤血球などの血球分化およびその成熟に重要な働きをしていることを明らかとすることが出来た。現在、これらの知見をとりまとめて論文化の準備を行っている所である。
作成したHSPノックダウンマウスを用いて、胎生期、成長期、性成熟期など様々ステージにおいて薬剤誘導性にHSP27の発現を抑制して、この赤血球分化など生体レベルでの効果を検証してヘムを介した新たな制御機構の実証を行い、成果の取りまとめを行う予定である。
次年度は、前年度に引き続きHSP27ノックダウンマウスの解析を中心として、動物の維持管理に要する費用、およびタンパク質レベルの細胞レベルの解析のために必要な物品費を主に計上する(1,400,000円を予定)。また得られた研究成果の発表や情報収集のための学会参加の費用の計上を行う(100,000円を予定)。なお、平成24年度の未使用額の発生は効率的な物品調達を行った結果であり、翌年度の消耗品の購入に充てる予定である。
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