研究課題
ヒトをはじめとする高等動物の細胞は,細胞膜上に増殖因子や細胞外基質に対する多様な受容体を発現しており,それらの厳密な制御は細胞の生理的応答のみならず,がん等の病理現象とも深く関わっている。Rab11-FIPは,低分子量Gタンパク質Rab11の結合タンパク質として細胞膜への受容体の輸送に関与することが示唆されている。しかしながら,その機能および分子機構には未解明の点が多く残されている。本研究では,Rab11-FIPのうち細胞膜の酸性脂質であるホスファチジン酸と結合するFIPに焦点をあて,乳がん細胞において遺伝子増幅が知られるホスファチジン酸代謝酵素を介した受容体輸送制御の機構を分子レベルで明らかにすることを目指す。 本年度は,ホスファチジン酸と結合するFIPの一つであるFIP5の種々の培養細胞株における発現分布を特異的抗体を用いて解析した。その結果,FIP5は転移性乳がん細胞株であるMDA-MB-231細胞において強く発現していることを見出した。現在,MDA-MB-231の特徴であるinvadopodia形成に対してFIP5が機能しているか否かを解析中である。 乳がん細胞において遺伝子増幅が知られるホスファチジン酸代謝酵素の一つであるDDHD2/KIAA0725pがphosphatidylinositol 4-phosphate (PI4P)に結合すること,また,この結合能がDDHD2のERGIC/Golgiへの局在化に必須であることを示した。DDHD2のPI4P結合部位は,分子C末端に位置するSAM-DDHDドメイン中のpositive charge clusterであった。DDHD2のホスホリパーゼA1活性にDDHDドメインが必須であることも合わせて見出した。SAM-DDHDドメインの機能はこれまで未知で本研究で初めてその機能を明らかにした。
2: おおむね順調に進展している
9. の実績の概要に記載した通り,当初の想定とは異なる部分もあるが,DDHD2の局在化メカニズムなど新たな知見を見出すことができたので。
当初の計画に立ち返り,1) 種々のがん細胞におけるRab11およびFIPファミリー分子の発現分布の解析 2) MDA-MB-231細胞を用いたFIP5とその結合因子による受容体輸送および細胞運動に対する機能解析 3) FIPsによる受容体輸送制御にホスファチジン酸代謝酵素が関与する可能性の検討,の順に推進する。
計画通り,受容体輸送を解析するため,細胞培養関連試薬,蛍光標識試薬等の消耗品を中心に使用する予定である。
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Biochim. Biophys. Acta
巻: 1823 (*, These authors contributed equally to this work.) ページ: 930-939
10.1016/j.bbamcr.2012.02.002