研究課題/領域番号 |
23570181
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研究機関 | 日本工業大学 |
研究代表者 |
佐野 健一 日本工業大学, 工学部, 准教授 (80321769)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | アクチン / ダイナミックインスタビリティ / 生物物理 / ナノバイオ |
研究概要 |
研究代表者のこれまでの研究成果から、アクチンゲルの貯蔵弾性率の自励振動現象は、アクチンフィラメント間の化学架橋と、アクチンの脱重合・重合ダイナミクスが必須であることを明らかにしてきた。アクチンゲル中で、アクチンの重合が進んでいるときには、貯蔵弾性率が上昇し、反対に協調的な脱重合が起こることで貯蔵弾性率が低下するように、協調的・同調的な重合・脱重合が、貯蔵弾性率の自励振動の源ではないかと考えている。一般に、蛍光色素でラベルしたアクチンでは、フィラメント化に伴い蛍光強度が上昇することが知られていることから、力学強度と蛍光強度を同時にモニターすることで、力学強度が自励振動しているアクチンネットワークの動態を明らかにすることができる。 今年度は、ストレスレオメーターに、石英製のパラレルプレートを導入し、プレート上面から20W、473nmのレーザー光を導入し、分光器で蛍光強度を導入するシステムの設計と構築および、評価をおこなった。試料面では、アクチンフィラメントの一分子蛍光観察で実績のあるLys375に、有機色素の中では退色に強い蛍光色素であるAlexa 488を結合したアクチン試料の調整に成功した。しかしながら、プロトタイプの蛍光観察システムを用いた実験に必要な量の蛍光修飾を施したアクチンでは、蛍光修飾による機能欠損のため、重合が十分に進まず、ゲル形成がおこらなかった。このような試料ではあるが、弱いながらも重合に伴う蛍光強度の増大と、動的粘弾性の上昇を同時に測定することに成功した。さらに現在、装置面では、高速・高感度検出を目指したさらなる改良とゲル形成を阻害しないアクチンの蛍光修飾法の検討を並行して進めている。 またアクチンゲルと同様の方法で作製した微小管ゲルについて同様の解析を実施したところ、微小管ゲルでもアクチンゲルと同じ貯蔵弾性率が自励振動することを見いだした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成23年度の計画は、力学強度と蛍光強度を同時にモニターする系の開発とアクチンへの蛍光修飾を実施するものであった。前者の同時モニター系の開発、すなわち、レオメーターへの光学系の導入では、レオメーター製造メーカー純正装置との比較で、時間分解能で3倍程度、光の検出感度で100倍程度の性能を持つプロトタイプの蛍光観察システムの製作に成功した。このときの時間分解能は、実測で10秒であり、この値は、アクチンゲルの自励振動周期の15-25分と比較して充分高いといえる。また、このプロトタイプの装置では、ひずみ量が1~1000%、周波数が1Hzにおいても蛍光観察が可能であることを確認している。さらに実際の測定で、貯蔵弾性率が1~7 Paの範囲で、弾性率の上昇と蛍光強度の上昇を同時にモニターすることに成功している。現在改良中のタイプでは、さらに時間分解能を2倍ほど向上させ、光の検出感度を20倍程度向上することが見込まれている。このように今年度の目標である同時計測系の開発は、おおむね順調に進んでいる。 後者のアクチンへの蛍光修飾については、当初計画のLys375への蛍光色素の導入では、アクチンのゲル化能を同時に失ってしまったが、現在、Cys374への色素の導入実験を進めている。すなわちマレイミド基を持つAlexa488色素をアクチンと反応させるのだが、このCys374はPEGによる架橋にも利用していることから競合する。条件検討の結果、まずPEG化反応をおこない、続いて大過剰量のAlexa488-マレイミドを用いて修飾することで、予備的な結果ではあるが、蛍光ラベルしたアクチンのゲル化に成功している。今後、改良中の同時観察システムが完成次第、測定に取りかかることができるため、到達度をおおむね順調とした。
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今後の研究の推進方策 |
本研究は、おおむね順調に進んでおり、結果として実験条件の検討などが比較的スムーズに進んでいる。 平成24年度は、現在改良中の同時計測系とCys374に蛍光色素を導入したアクチンを用いて、アクチンゲルの貯蔵弾性率の自励振動と蛍光強度の同時測定を実施し、力学強度が振動するメカニズムの解明に迫る。また、アクチンゲルの振動現象は、化学架橋特異的なものであるのか、あるいは生体内で働くアクチン架橋タンパク質で、作製したハイドロゲルでも見られる現象なのかについて明らかにしていく。具体的には、filamin, α-actininの組換えタンパク質の発現系の構築と精製条件の検討、さらにHMMなどアクチンフィラメントを架橋することのできるタンパク質を順次調製しゲル化条件を探索する。この際、発現系構築時には遺伝子合成によるコドンの最適化をおこない、スムーズなタンパク質発現を可能にすることを計画している。 次に、アクチン架橋タンパク質で架橋したゲルについて、レオメーターを用いた動的粘弾性測定により、ゲルの機械物性の評価、および「創発性機能」である自己修復能・機械強度の振動現象についての試験を実施する。これらは、「創発性機能」発現機構を解明する上でも、細胞生物学的なアクチンの挙動の解明においても極めて重要な問題である。 平成25年度は、特にアクチンゲルの振動周期と時間スケールがほぼ一致する、アクチンフィラメントのダイナミックインスタビリティに着目して解析をおこなうとともに、必要な生化学実験について適宜実施する。微小管のダイナミックインスタビリティは、アクチンよりも計測や解析が容易と考えられる。そこで今年度、新たに発見した微小管ゲルの自励振動について、必要に応じてアクチンゲルに優先して解析をおこなうことを検討している。
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次年度の研究費の使用計画 |
物品費として、汎用試薬類、蛍光色素、ガラス・プラスチック類消耗品の他、精製したタンパク質試料の保存に用いる凍結乾燥機の導入、さらにアクチン架橋タンパク質であるfilaminやα-actininのcDNAの遺伝子合成を予定している。平成24年度の計画において、アクチン架橋タンパク質のcDNAクローニングから発現系への導入、組換えタンパク質の発現量を確保するためのコドン最適化に多大な手間と時間を要することが予想される。そのため、次年度繰り越しを活用し、遺伝子合成により、あらかじめホスト細胞に最適化したコドンに代えた合成人工遺伝子を購入することを計画している。最適化が済んだ合成遺伝子を発現ベクターに組込むことで、組換えタンパク質の発現条件検討を速やかに終らせ、本来の課題であるアクチンゲルの振動解析に集中することができると考えている。また凍結乾燥機については、現所属施設に設置されておらず、一部のアクチン架橋タンパク質試料の保存には必要な装置であることから導入を計画している。 旅費には、9月に名古屋で開かれる日本生物物理学会年会において成果報告と情報収集、12月に福岡で開かれる日本分子生物学会年会において成果報告と情報収集を予定している。平成23年度の成果を中心に発表し、多くの研究者と議論・情報収集をおこない、本研究にフィードバックする。 人件費・謝金には、投稿論文の英文校正・論文掲載料の他、資料整理のアルバイトなどを予定している。
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