研究課題/領域番号 |
23570181
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研究機関 | 日本工業大学 |
研究代表者 |
佐野 健一 日本工業大学, 工学部, 准教授 (80321769)
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キーワード | アクチン / ダイナミックインスタビリティ / 生物物理 / ナノバイオ / 微小管 |
研究概要 |
研究代表者のこれまでの研究成果から、アクチンゲルの貯蔵弾性率の自励振動現象は、アクチンフィラメント間の化学架橋と、アクチンの脱重合・重合ダイナミクスが必須であることが分っている。アクチンゲル中で、アクチンの重合が進んでいるときには貯蔵弾性率が上昇するのに対して、協調的な脱重合が起こった際には貯蔵弾性率が低下するように、協調的・同調的な重合・脱重合が、貯蔵弾性率の自励振動の源である可能性が高い。この協調的・同調的な重合・脱重合は、アクチンフィラメントや微小管で見られるダイナミックインスタビリティ(動的不安定性)によるものと考えている。今年度は、昨年度に引き続きストレスレオメーターに、石英製のパラレルプレートを導入し、プレート上面からレーザー光を導入し、分光器で蛍光強度を測定するシステム構築を実施した。 また、アクチン架橋タンパク質を架橋点としたハイドロゲルの作製において、filamin遺伝子のアクチン結合領域のcDNA合成、ならびに大腸菌を使った発現系の構築を行った。さらに、ミオシンIIを架橋点とするハイドロゲルの作製にも成功した。 一方、昨年度アクチンゲルと同様の方法で作製した微小管ゲルについて、基本的な物性データの取得を行ったところ、同様の解析を実施したところ、微小管ゲルでもアクチンゲルと同様に、自己修復能を有することを見いだした。また最も興味深いことに、微小管ゲルでは、架橋していない微小管と比べて、重合の臨界濃度が低下し、脱重合の臨界濃度が上昇することを明らかにした。このことは、チューブリンの架橋によるダイナミックインスタビリティが増大することを意味する。この結果は、微小管の架橋とそれに伴うゲル化・自励振動とダイナミックインスタビリティとの関係を示唆する重要な結果であると考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成24年度の計画は、力学強度と蛍光強度を同時に測定する系の改良、Cys374に蛍光色素を導入したアクチンを用いたアクチンゲルの貯蔵弾性率の自励振動と蛍光強度の同時測定、アクチン架橋タンパク質で物理架橋したアクチンゲルの貯蔵弾性率測定であった。 昨年度より引き続き実施した、同時測定系の改良では、プロトタイプに比べて、時間分解能を約2倍に、蛍光の検出感度を約20倍にすることに成功した。また、アクチン架橋タンパク質を架橋点としたハイドロゲルの作製において、filaminのアクチン結合領域のcDNA合成、ならびに大腸菌を使った発現系の構築を行った。しかしながら、発現量が極端に少なく、アクチンゲル作製に充分な量が得られないことから、現在、発現条件の最適化を試みている。また並行して、充分な量が確保できるウサギ骨格筋から調整したミオシンのHMM(ヘビーメロミオシン)を架橋分子としたゲルの創製を試みた。その結果、両末端に官能基を持つPEGを用いて、二量体化させた分子を用いて、これをアクチンフィラメントの架橋点としたアクチンのゲル化に成功した。現在、これらの試料を用いた測定の準備を進めているが、データ取得に至っておらず、当初の計画よりやや遅れていると考えている。 他方、微小管のダイナミックインスタビリティは、アクチンのものよりも計測や解析が容易と考えられたことから、平成24年度は、微小管ゲルの基本的な物性評価を行った。その結果、微小管ゲルでは、架橋点の数が増えるに従い、チューブリンの温度依存的な重合の促進が見られた。しかしながら一方で、脱重合も促進された。これらの結果から、架橋点の増加、すなわち微小管のゲル化に伴って、ダイナミックインスタビリティが増大していることが示唆された。このことは、細胞骨格タンパク質ゲルの自励振動の分子メカニズムを解明する上で重要な発見であると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度は、開発した動的粘弾性と蛍光強度の同時計測装置を用いた測定を実施し、力学強度が振動するメカニズムの解明に迫る。また、アクチンゲルの振動現象は、化学架橋特異的なのか、あるいは生体内で働くアクチン架橋タンパク質で作製した物理架橋アクチンゲルでも同様に見られる現象なのかを明らかにする。そのため、今年度作製したアクチン架橋タンパク質であるfilaminのアクチン結合領域の組換えタンパク質発現系を改善し、ゲル作製に充分な組換えタンパク質を確保する。次に、アクチン架橋タンパク質で架橋したゲルについて、レオメーターを用いた動的粘弾性測定により、機械物性の評価、および「創発性機能」である自己修復能・機械強度の振動現象について、試験を実施する。これらは「創発性機能」発現機構を解明する上でも、細胞生物学的なアクチンの挙動の解明においても極めて重要な問題である。さらに微小管ゲルのダイナミックインスタビリティに焦点を当て、アクチンと同様の解析を進めると同時に、細胞骨格ゲルの自励振動のモデルを構築する。
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次年度の研究費の使用計画 |
物品費として、汎用試薬類、蛍光色素、ガラス・プラスチック類消耗品の他、遺伝子組換え関係試薬類、合成DNAなど、消耗品への支出を予定している。旅費としては、10月に京都で開かれる日本生物物理学会年会において成果報告と情報収集を計画している。平成24年度の成果を中心に発表し、多くの研究者と議論・情報収集をおこない、本研究にフィードバックする。謝金には、投稿論文の英文校正・論文掲載料を予定している。
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