研究課題
(1) トロンビン刺激血小板におけるフィブリンのラフト画分移行血管が傷つくと血液凝固反応が開始され、血中の血液凝固第I因子であるフィブリノーゲンがトロンビンによる切断でフィブリンに変わりフィブリンの網が強固な血栓として傷口を固める。血小板は血栓の主要な細胞成分であり、一連の血液凝固因子の活性化を血小板膜表面でおこすことにより、血栓形成開始時において先導的な役割を果たしている。また、血液が凝固したのちにフィブリン網と血小板からなる凝血塊が収縮する血餅退縮という現象が知られ、形成した血栓を強固にして止血を完全にする働きをしている。私たちは血小板活性化に伴い膜ラフトに移行する血液凝固因子の存在の可能性を検討し、フィブリンが膜ラフトに移行すること、さらにそれが血餅退縮に関与する可能性を見出した。(2) 免疫染色法により示されたフィブリンのスフィンゴミエリンラフト移行ショ糖密度勾配遠心は膜ラフトの標準的な精製法であるが、「膜ラフトへの移行」と結論づけるためには他の方法でも移行を示すことが一般的である。そこでスフィンゴミエリン特異的膜ラフト認識毒素Lyseninをラフトマーカーとして用いて、フィブリンが脂質ラフトに移行しているかどうかを免疫染色法で調べた。トロンビンで活性化した接着血小板では中央領域のみがLyseninとフィブリン抗体で特異的に共染色され、スフィンゴミエリン特異的膜ラフトとフィブリンが共局在することがわかった。
2: おおむね順調に進展している
本研究において、トロンビン刺激によってフィブリンが血小板ラフトに移行するというまったく新しい現象がおきている可能性を見出し、ショ糖密度勾配遠心法、質量分析法、ウエスタンブロット法、免疫染色法を組み合わせてそれを明確に示した。最近にラフトは均一な構造体ではなく構成成分の異なったヘテロな構造の集合体であることがわかってきたが、血小板にもラフトの不均一性が存在すること、スフィンゴミエリンのラフトに特異的にフィブリンが移行すること示したことから学術的意義が高いと考えられる。
(1) 血餅退縮に関わるフィブリン以外のラフト移行分子の探索:血餅退縮は血小板膜のインテグリンに細胞外側からフィブリン線維が、細胞質側からアクトミオシンが結合し、アクトミオシンの収縮によっておこることが知られている。そこでこれらの分子のうちフィブリンと同様にラフトに移行する分子を探索し、血餅退縮における役割について解析する。(2) スフィンゴミエリン合成酵素欠損血小板を用いた血餅退縮の解析:スフィンゴミエリンラフトにフィブリンが移行することから、実際にスフィンゴミエリンラフトが血餅退縮に関わっているかどうかを確かめるためにスフィンゴミエリン合成酵素欠損血小板を用いて血餅退縮を解析する。(3) フィブリンラフト移行のメカニズムの解析:フィブリンのラフト移行に血液凝固XIII因子が関わっている可能性を見出している。そこでXIII因子トランスグルタミナーゼによってクロスリンクされる部位の変異体を使った解析、およびXIII因子欠損血小板を用いた解析をおこなう。
(1) 血餅退縮に関わるフィブリン以外のラフト移行分子の探索:血小板インテグリン、アクチン、ミオシンの抗体、およびウエスタンブロット、免疫蛍光染色に用いる2次抗体などを購入する。(2) スフィンゴミエリン合成酵素欠損血小板を用いた血餅退縮の解析:スフィンゴミエリン合成酵素欠損マウスの輸送費、血餅退縮解析試薬、シリコンコートチューブなどの購入(3) フィブリンラフト移行のメカニズムの解析:XIII因子トランスグルタミナーゼによってクロスリンクされる部位の変異体作製用の試薬、XIII因子欠損マウスの輸送費、血小板調製試薬などの購入
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