研究課題/領域番号 |
23570188
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
新井 宗仁 東京大学, 総合文化研究科, 准教授 (90302801)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 生物物理 / 蛋白質 / フォールディング / 分子認識 / 天然変性蛋白質 |
研究概要 |
本研究では、天然変性蛋白質が標的蛋白質を認識する反応の分子機構の解明を目的とする。これにより、天然変性蛋白質による分子認識の物理的基盤を構築する。 まず、天然変性蛋白質p53が標的蛋白質CBP TAZ2を認識するときの結合部位と解離定数を定量的に求めるために、NMR滴定法を用いて解析した。がん抑制因子p53のN末端転写活性化ドメインは天然変性領域であり、AD1とAD2という2つのサブドメインに分けられる。これらのペプチドの一方を、15NラベルしたTAZ2蛋白質に滴定していくと、TAZ2のNMRピークがカーブする様子が観測された。滴定に伴う化学シフトの変化を特異値分解(SVD)法で解析することにより、TAZ2上には、AD1(およびAD2)の結合部位が2ヶ所あることがわかった。また、SVD法をデータのノイズ・フィルターとして用いたあと、2サイト結合モデルを仮定して、滴定曲線をグローバル・フィッティングした結果、これらの結合部位および解離定数を精度良く得ることができた。 次に、NMRピークの線形を詳細に解析した結果、TAZ2-AD2間の高親和性結合では、結合速度が1.7x10(10) M(-1) s(-1)、解離速度が540 s(-1)という値を得た。これは、本実験条件下では、1マイクロ秒程度の時定数で結合し、2ミリ秒程度で解離するという、極めて速いダイナミクスの存在を示している。 従来、蛋白質間結合速度としては10(9) M(-1) s(-1)オーダーのものが知られていたが、p53 AD2とCBP TAZ2の結合は、これまでで最速の蛋白質間相互作用と言える。これは、AD2の負電荷とTAZ2の正電荷間の強い静電引力によって実現されると考えられる。天然変性蛋白質には電荷が多く、それゆえに変性構造を採る。今回の結果は、一般に、天然変性蛋白質が関与する結合は極めて速いことを示唆する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実績の概要に記載の通り、天然変性蛋白質p53による標的蛋白質認識機構に関して新たな知見が得られた。
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今後の研究の推進方策 |
今後も引き続き、当初の研究計画通りに研究を遂行する予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
引き続き、天然変性蛋白質の標的分子認識機構の実験的研究を遂行するために、研究費を使用する。主に、消耗品費として用いる予定である。
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