研究課題/領域番号 |
23570189
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
神谷 律 東京大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (10124314)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 生物物理 / 分子機械 / 分子モーター / 細胞・組織 / タンパク質 |
研究概要 |
チューブリン翻訳後修飾の一種ポリグルタミル化は、微小管と結合タンパク質間の相互作用に大きな影響を与えることが知られている。われわれは以前、単細胞生物クラミドモナスにおいて、ポリグルタミル化酵素の1つが欠失した突然変異株tpg1を単離し、その鞭毛軸糸チューブリンのポリグルタミル化が激減していることを示した。tpg1株の運動性は野生株と比べて低下しており、さらに、低速で運動を行うダイニン外腕欠損変異株はtpg1変異が加わると、全く運動できなくなる。このことから、tpg1変異は主にダイニン内腕の機能を阻害すると結論された。今年度の目的の一つは、ダイニン内腕に含まれる合計7種の主要なダイニン分子種(a~g)のうち、ポリグルタミル化の欠損によって最も強く影響を受ける分子種の決定であった。その目的のために、種々の内腕ダイニン分子種を欠損している6種の突然変異株それぞれとtpg1の2重変異株を作製し、その運動性を解析した。その結果、興味深いことに、分子種eを欠失した2種の変異株では、tpg1変異の有無によって運動性がほとんど影響を受けないことが判明した。対照的に、分子種e以外のダイニンを失った変異株の運動性はtpg1変異が共存すると大きく低下した。これらの事実は、チューブリン・ポリグルタミル化が分子種eという特定のダイニン1種にのみ強く影響を及ぼしていることを示唆する。また、tpg1変異をさまざまな程度に回復した形質変換体を作製し、チューブリン・ポリグルタミル化と運動性の関係を検討した。その結果、細胞の遊泳速度はポリグルタミル化の程度に対して連続的に増大することが判明した。ダイニンeの微小管結合サイトは全軸糸ダイニン中最も塩基性なので、ダイニンeと微小管との電気的相互作用が軸糸の運動に重要であると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度はチューブリン・ポリグルタミル化の欠損がダイニン分子種eに対して特に大きな影響を与えることを明らかにした。また形質転換体におけるポリグルタミル化の程度と運動性は良い相関を示した。すなわち、当初計画したとおりの成果が得られたと考える。
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今後の研究の推進方策 |
ダイニンモーター活性に対するチューブリン・ポリグルタミル化の影響をin vitro運動検定法によって検討することを計画したが、鞭毛軸糸微小管のチューブリンを重合させることは実験的に困難であることが判明した。そのため、試験管内で重合させた微小管を使う運動検定ではなく、単離した軸糸を用いた運動検定を行う方針に変更する。
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次年度の研究費の使用計画 |
生化学実験のための試薬とガラス器具の費用、論文英文校閲費、論文投稿費、学会発表のための旅費に用いる。
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