研究課題/領域番号 |
23570191
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
廣明 洋子 名古屋大学, 細胞生理学研究センター, 特任准教授 (80378588)
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キーワード | 膜蛋白質 / アクアポリン-4 / 電子線結晶構造解析 |
研究概要 |
本研究の目的は膜蛋白質の構造情報を高度に活用しつつ遺伝子改変マウスと生化学的手法を用いて、脳のアストロサイトに優位に発現している水チャネルアクアポリン-4(AQP4)の生理機能を構造学的視点から理解することである。 脳の視床下部付近のグリア層状構造について、AQP4のKOマウスでは野生型との違いが発見できなかった。それで、AQP4の構造解析に基づいて細胞外の310へリックスをウシAQP1のものに置換した遺伝子改変マウスを作製し、野生型マウスの脳切片と比較観察した。その結果、この遺伝子改変マウスはorthogonal arrayを形成できるが、細胞を接着する機能が欠損しているとみられる結果を得た。 このグリア層状構造について、3次元立体構造を電子線トモグラフィ法でより詳細に解析するために、電子顕微鏡観察用超薄切片を作製し、遺伝子改変マウスと野生型マウスのデータ収集をほぼ完了し、解析を進めている。 また、AQP4のC末75アミノ酸残基中に、既存の相互作用モチーフの検索を目的としてEukaryotic Linear Motif resource for Functional Sites in Proteins (ELM)で探索したところ、タンパク質-タンパク質相互作用に関与するモチーフはエンドサイトーシスに関わるもの、およびクラスI PDZドメインであった。それ以外は、細胞質で機能する因子との相互作用を予測した。そこで、PDZドメインとの相互作用を検証すべく、クラスIに属するPDZドメインを準備している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
AQP4の生理機能を理解するために、KOマウスをはじめ、いくつかの遺伝子改変マウスを作製して研究を進めているが、それらの結果から、理解しやすいデータを得ることができなかったので、実験や解析に時間を費やしてきた。しかし、構造に基づいて設計した遺伝子改変マウスについては野生型との明確な相違を確認できた。すなわち、構造解析で予想したAQP4の細胞接着機能は、結晶化によるアーティファクトではなく、少なくとも、視床下部のグリア層状構造における細胞接着という機能を担っていることが確認できた。それゆえ、その部分の形態観察を進めている。当該部位の電子顕微鏡観察用超薄切片を作製し、電子線トモグラフィ法による解析に向けてデータ収集をほぼ完了している。現在、電子線トモグラフィ法による解析を実施中である。 また、AQP4のC末と相互作用するモチーフの同定については、該当部位75アミノ酸残基をELMで検索したところ、形質膜相互作用に関与するドメインは、クラスI PDZドメイン、およびエンドサイトーシスに関わるもののみであった。そこで、PDZドメインとの相互作用を検証すべくクラスIに属するPDZドメインの数種類を準備した。 さらに、未知の相互作用ドメインおよび相互作用する蛋白質を探索するため、遺伝子改変マウスを用いて質量分析を実施する計画であったが、アストロサイトのマーカーであるGFAPとAQP4とで共染色を実施したところ、アストロサイトの分化誘導の有無にかかわらず、AQP4発現細胞が予想よりも少ないことがわかった。脳内でAQP4をより高濃度に発現しているグリア層状構造は、その領域が非常に小さく質量分析の材料として採取するには非常に困難である。そこで、質量分析を実施するためにはアストロサイト初代培養細胞から、より高頻度でAQP4発現アストロサイトを調製する方法の検討を行っている。
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今後の研究の推進方策 |
脳の形態観察については、電子線トモグラフィ法による解析を完了し、形態の比較検討を立体構造解析に基づいて行う。 AQP4のC末とPDZドメインとの相互作用を検証し、より結合定数の高いドメインを見出す。さらに、それをAQP4の2次元結晶化に用い、構造に差異があるかどうかを調べる。 さらに、Ca-channel、Kir4.1やCl-channelとの共局在が報告されているが、既知モチーフ以外での相互作用の可能性も示唆されるため、アストロサイト初代培養を利用してAQP4と結合するものを質量分析で解析する予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
遺伝子改変マウスの飼育にかかる費用、細胞培養に必要な培地や結晶化キット等の消耗品、および研究成果についての打ち合わせのための旅費を計上しようと計画している。
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