本研究の目的は、セルピン蛋白質がポリマー化して起こるセルピン病の新しい治療薬開発戦略を提案することである。モデル蛋白質には、変異体が認知症を引き起こすことで知られているニューロセルピンと、これまでポリマー化が起こらないと考えられてきたオボアルブンを使用した。 (I)セルピンのポリマーは非常に不安定で、結晶化が極めて困難である。そこで、ポリマーの連結部と酷似した構造(ループ挿入型β-sheet A)を持つCleaved型(熱安なモノマー)の結晶構造解析を行うことでポリマーの連結部分の相互作用の解析を目指した。その結果、Ser49Pro型病原性変異体において、2.0Å分解能でのX線結晶構造解析に成功した。 (II)上述で得た結晶構造を基に、ポリマー連結部分の相互作用について調べた。その結果、病原性変異体のβ-sheet A構造は、野生型のそれに比べ水素結合の数が少なく不安定であることが示唆された。そこで、病原性変異体のβ-sheet A構造は野生型よりも容易に開閉し、分子内部の疎水性コアを露出しやすいのではないかと考え、疎水性クラスターに特異的に結合する蛍光プローブでこれを確認した。その結果、変異体の蛍光プローブに対する結合定数は、野生型の300倍以上であることを明らかにした。 (III)上述で見出した蛍光プローブを利用し、病原性変異体を安定化してポリマー化を抑止する低分子を探索した。その結果、薬剤の候補となるいくつかの低分子化合物を見出した。 (IV)セルピンのポリマー化が起こる原因を特定するため、これまでポリマー化が起こらないと考えられてきたオボアルブンのポリマー化を試み、これに成功した。また、このポリマーの構造解析を物理化学的手法で行い、その特徴を明らかにした。
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