神経筋接合部のポストシナプスでは、ニコチン性アセチルコリン受容体(nAChR)を中心とした複数のタンパク質から成るクラスターが存在し、このクラスターを介して情報伝達が行われている。クラスターの形成機構に関しては、初期型クラスターが自発的に形成された後、プレシナプスから放出されるagrinによって成熟することが知られているが、クラスター内の分子局在や分子レベルの形成メカニズムに関しては、ほとんど解明されていない。そこで、agrin存在下および非存在下における、筋管細胞上で形成されたクラスター内のnAChRと筋特異的受容体チロシンキナーゼ(MuSK)の分子分布を、共焦点レーザースキャン顕微鏡(LSM)と走査型電子顕微鏡(SEM)を用いた相関顕微鏡法により解析した。その結果、どちらのクラスター内でもnAChRとMuSKが混在した小さな分子集積が複数存在していたが、agrin非存在下と比べてagrinによる成熟後のクラスターでは、1つひとつの分子集積を構成する分子数が多いこと、MuSKの分子数に対するnAChRの割合が増加していることなどが明らかになった。 また、生きている時に近い状態での構造を解析するためには、化学固定や脱水・乾燥などの試料調製を必要としないクライオ電子顕微鏡法が有効である。本研究課題2年目に、クライオSEMで金ナノ粒子が観察可能であることを示したので、これを発展させて、クライオSEMとLSMを用いた筋管細胞の相関観察法について検討を行った。常温SEMを用いた相関観察で細胞培養の基板として利用していたグリッドが印刷されたカバーガラスはクライオSEMではグリッドを検出できず、利用できないことが分かった。そこで、種々の土台について検討を行った結果、透過型電子顕微鏡用の金製グリッドを利用することにより、LSMとクライオSEMを用いた筋管細胞の相関観察を行うことに成功した。
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