研究課題
真核生物や古細菌の tRNA 遺伝子の中には、イントロンを含むものが存在する。まず tRNA 転写物のイントロン部分が、スプライシングエンドヌクレアーゼ(SEN)によって切り出される。この過程については SEN の結晶化も行われ、詳細な解析がなされている。一方、エキソン部分の連結については、酵母以外の生物では長らく謎とされていた。提案者は、メタン生成古細菌 Methanosarcina acetivorans の細胞抽出液中に、tRNA のエキソンを連結する活性(tRNA リガーゼ活性)を見いだしたが、この活性を濃縮することができなかった。その間、2011 年、ヒトや古細菌で tRNA リガーゼと思われる遺伝子が同定された。意外なことに報告された遺伝子は、tRNA 遺伝子にイントロンを持たないバクテリアにも普遍的に見いだされる rtcB という遺伝子であった。そこで、M. acetivorans の RtcB を大腸菌で過剰発現させようと試みたが、M. acetivorans の RtcB は不溶化してしまうので、可溶化できるようマルトース結合タンパク質(MBP)との融合タンパク質を調製した。しかし、MBP を除去すると不溶化すること、除去しない場合は、凝集し活性を持たないことが明らかとなった。現在、RtcB が機能するためには、なんらかの因子が必要だという作業仮説を立てている。一方、イントロンを含む tRNA 前駆体に結合するタンパク質を調製したところ、アーケオシン合成の第一ステップに働くと考えられる ArcTGT が得られた。tRNA リガーゼが働くためには、tRNA の修飾が必要である可能性を考え、ArcTGT の精製や過剰発現を試みて純粋な ArcTGT を得ることに成功した。今後、tRNA 前駆体の修飾が tRNA リガーゼ活性に影響を与えるか調査したい。
3: やや遅れている
研究実績の概要でも触れたように、MBP 融合タンパク質が得られる発現ベクターなどを試したものの、現在までに、tRNA リガーゼ活性を有する recombinant RtcB を得ることができていない。活性を持った RtcB が得られないと、試験管内で tRNA スプライシング反応を構築することができないので、テーマに挙げた古細菌とヒトの tRNA スプライシング反応の共通点や、相違点を見いだすことが難しい。現在、RtcB に何か不足している分子が存在する、または tRNA リガーゼ活性には tRNA の修飾が必要である、という作業仮説を立て、これを検証することを計画している。
大腸菌で M. acetivorans RtcB を発現させると不溶化し、MBP と融合させた場合は、一見、可溶化したように見えて、RtcB 領域が凝集した状態になっていることが明らかとなった。M. acetivorans の細胞内に RtcB と相互作用する低分子化合物が存在し、RtcB を安定化させているという作業仮説を立て、今後は、これを検証することとしたい。不溶化した RtcB を Ni アフィニティーカラム上でリフォールディングさせ、そこに M. acetivorans の細胞抽出液を流すことによって、RtcB が安定化するか調べることにする。またイントロンを含む tRNA 前駆体に、tRNA 修飾酵素である ArcTGT が結合することが明らかとなったので、tRNA リガーゼ活性の発現には tRNA 内の修飾ヌクレオチドが必要である可能性を考慮し、基質として native な tRNA を用いて活性評価を行う系を構築することも試みたい。
物品費については、高額な物品を購入する予定はなく、蛍光標識用試薬や、カラムクロマトグラフィーの条件検討のために器具や樹脂を購入する。また、RtcB の活性発現に M. acetivorans の細胞内に存在する低分子化合物が必要である可能性を考慮して M. acetivorans のリットルスケール培養のための器具、試薬を購入する。その他、研究打ち合わせ等の旅費、研究サポートのためのアルバイト代、共通施設、共通機器の使用料などを、それぞれ 10 万円程度見込んでいる。
すべて 2013
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件)
Protein Expr. Purif.
巻: 88 ページ: 13-19
10.1016/j.pep.2012.11.009