研究課題/領域番号 |
23570211
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
米崎 哲朗 大阪大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (90115965)
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研究分担者 |
大塚 裕一 大阪大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (10548861)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | ファージ / 宿主認識 / 尾線維 / 尾部基盤スパイク / LPS / OmpC |
研究概要 |
<T2 ファージの尾線維をもつT4ファージ の作成>細胞表層リセプターを認識する尾線維をT2のものに置換するため、まずT2の隣接する遺伝子37と38の増幅を試みた。忠実度の異なる3種類のDNAポリメラーゼを用いたものの、いずれも増幅することができなかった。そこで、T2ファージDNAを制限酵素で消化後、遺伝子37と38を含む断片を調製した。この断片をエレクトロポレーションによって大腸菌に導入した後、この細胞にT4ファージを感染させて増殖させた。得られた子ファージから、T2の宿主域をもつものを選別し、塩基配列を解析したところ期待通りT2の遺伝子37と38をもつT4ファージであることが確認できた。<DT 変異体T4 ライブラリーの作成>細胞表層リセプターと相互作用する尾線維先端部(DT)にランダムなアミノ酸置換を導入するために、Mn存在下でのPCRを検討し、DT(140アミノ酸)あたり0.8個の塩基置換を起こす条件を確立した。DT変異体ライブラリーを作成するために変異導入したDTと隣接領域を増幅した断片とを繋ぎ、プラスミドにクローン化した。手始めに、得られたクローン数3600個についてT4ファージを感染させてDT 変異体ライブラリーを作成した。この中から大腸菌O157に感染できるもの探したが存在しなかった。従って、尾部基盤スパイクも宿主認識に関わる可能性が上昇した。<LPSとOmpCの関与>T4がK12株に感染するときにリセプターとして機能するLPSとOmpCはO157がもつそれらとは異なっている。そこで、K12のOmpC欠失変異体にO157のOmpCを発現させたところT4の感染は可能であった。一方、O157の変異体を用いてK12のLPSとほぼ同じものを発現させるようにしたものではT4の感染は不可能であった。これらのことからも尾部基盤スパイクの関与が疑われる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ファージと宿主が接触したとき、最初の宿主認識装置であるファージ側の尾部線維がホモ3量体から成るT4に対してT2では一量体である。初年度にT2ファージの尾部線維をもつT4ファージの構築に成功したので、今後の尾部線維改変操作がやりやすくなった。また、これまでに解析が行われていなかった尾部基盤スパイクの宿主認識への関与が浮き彫りとなってきたので、当初は本研究課題である<ファージによる宿主認識機構の検証>の対象とすべきかどうかを図りかねていた尾部基盤スパイクも解析の焦点のひとつとして据える価値がでてきた。一方、DT変異体ライブラリーについてはサイズの小さいものしか手に入らなかったので、DTを構成する420ヌクレオチドの全てについてランダムな置換を保証するためには、置換頻度の低いものも含められるよう、さらに一ケタサイズが大きいライブラリーの構築が必要であろう。 O157をT4が感染できない株のモデルとして選び、変異体を作成することによってリセプターLPS構造改変が可能となった。これらの変異体は、尾部基盤スパイクの関与を解明していく上で有用な系となり得る。
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今後の研究の推進方策 |
尾部基盤スパイクの宿主認識への関与について、当初の計画以上に踏み込んだ解析に向かう。具体的には尾部基盤スパイクの関与を明確にするためにO157に感染するファージの尾部基盤スパイクをT4に導入して感染能を計測する。この目的を始め、今後さまざまなファージ由来の尾部基盤スパイクや改変した基盤スパイクを導入しやすくするために、基盤スパイクをコードする遺伝子12を欠失したT4ファージを作成し、プラスミド上にクローン化した遺伝子12を組み換えによってファージに移す系を確立させる。同様に、尾部線維の改変を効率化するために、T2の尾部線維をもつT4を材料として、尾部線維の宿主認識域をコードする遺伝子38の欠失変異体も作成する。 また、尾部基盤スパイクと尾部線維の両方がそろって始めて感染が成立する可能性を考慮すると、感染能力に頼らない宿主認識能力を評価する方法が必要である。細胞表層分子をプレート上に結合させ、様々に構造変化した尾部基盤スパイクや尾部線維をもつファージ混液の中から親和性の高いファージを濃縮する方法の開発に取り組む。
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次年度の研究費の使用計画 |
備品として老朽化したサーマルサイクラーの更新のため新規購入を計画している。それ以外は殆ど全てを旅費や消耗品の充填にあてる。
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