研究課題/領域番号 |
23570211
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
米崎 哲朗 大阪大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (90115965)
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研究分担者 |
大塚 裕一 大阪大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (10548861)
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キーワード | ファージ / 宿主認識 / LPS / ポリン |
研究概要 |
<DT 変異体T4 ライブラリーの作成>昨年度に引き続き、細胞表層リセプターと相互作用する尾線維先端部(DT)にランダムなアミノ酸置換を導入したT4 DT2ファージライブラリーのサイズを40000に増やし、その中から大腸菌O157に感染可能なクローンを探したが検出できなかった。 <LPSとOmpCの関係>大腸菌K12株のLPSとOmpCは共にT4の吸着に必要なリセプターと考えられている。しかし、B株はT4の良い宿主であるにもかかわらず、ゲノム配列からOmpCを欠失していることがわかった。そこで両者の関係を明らかにするために、K12のLPS合成に関わる遺伝子群の変異体への吸着能を調べたところ、B株のLPSに近い構造であるinner core+GlucoseのL場合にはOmpCの有無にかかわらず効率よく吸着できることがわかった。また、T4が吸着できないO157株のLPSも変異導入によって構造変化させた場合に、やはりinner core+Glucoseのときに効率よい吸着を示した。このことはLPSが第一義的なリセプターであり、LPSの構造変化により吸着能が低下するのをOmpCが補っていることを示唆する。LPSの変異導入によりO157株への吸着が可能となったので、T4の増殖を調べたところ T4は遺伝子発現不能に陥り、全く増殖できなかった。 <T4ファージの大腸菌O157での増殖>上の結果を受けて、表面リセプターへの吸着を必要とせず直接DNAを細胞内に注入させることができる、尿書処理T4ファージとスフェロプラスト化したO157の組み合わせでもT4ファージの増殖を調べた。その結果、やはり増殖不能であった。このことからO157はT4のDNAが注入されても遺伝子発現を抑制する何らかの仕組みをもつことが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究のテーマである「ファージによる宿主認識機構の検証」は、2つの観点において価値ある展開が得られた。1つめはT4ファージ吸着の真のリセプターが何かという問題に答えることが可能となってきたことであり、2つめは過去の文献に記された結果に基づいてたてた予想とは相反する意外な事実が発掘されてきたことである。過去の文献では、自然界での宿主か否かを問わず、T4ファージのDNAが細胞に注入された場合には、グラム陰性菌の多様な種で増殖可能であると報告されていた。しかし、本研究はこの見解に合致しない例を見いだした。すなわち、本来の宿主に近縁であるが、吸着できないため宿主とはならないO157株のLPSを改変してT4の吸着を可能にした場合、および吸着過程を経ずファージのDNAを菌体に直接導入した場合、のいずれについてもT4は増殖はできなかった。このことは、ファージがある細菌を宿主として利用するためには、吸着段階とその後の段階の両方にマッチングが必要であることを示すものである。後者は、これまでのファージ研究では全く想定されていなかったことなので新規の研究分野を開拓したといえる。
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今後の研究の推進方策 |
<吸着リセプターの実体解明>T4ファージ吸着リセプターの実体をさらに明確化するため、LPSのリセプター活性を保った最小の構造(コア構造)を割り出す。このコア構造をさらに縮める、或は余分な糖の付加によって低下するリセプター活性を補償する仕組みとしてのOmpCの役割を解析する。この際に、K-12のOmpCに比し、ごく一部のアミノ酸配列が変化しているO157のOmpCは上述の補償機能が著しく低下しているので、OmpCの役割に不可欠なアミノ酸あるいは領域を割り出すことによってファージ吸着の分子間相互作用がより具体的にとらえることが可能になると考えている。また、LPSとOmpCの関係が、一般的に他のファージにも成り立つのかを確認する。具体的には、OmpCではなくFadLがリセプターとして報告されているT2ファージ、O157のOmpCがリセプターとして報告されているPPO1ファージについて、LPSがコア構造として存在する場合にはこれらのポリンが吸着には不要となるのか否かを確かめる。 <O157に感染可能なT4ファージの創出>宿主認識機構を解明する上で、大胆なチャレンジは本来感染できないO157に感染可能なT4ファージを創り出すことである。過去の2年間の成果に基づいてアプローチのしかたを修正し、O157を宿主とするPPO1ファージの吸着器官をもつT4ファージを作成してPPO1とともにO157に混合感染させることによりO157で増殖可能なT4の単離を試みる。単離したファージの遺伝子組成を調べることにより、T4増殖がO157で阻止される要因を明らかにできる。
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次年度の研究費の使用計画 |
上記計画のLPSコア構造の決定には糖鎖の人工合成も委託するつもりである。また、O157で増殖可能なT4ファージを単離したとき、ゲノム解析にかかる費用も大きいので、殆ど全てを消耗品の充填にあてる予定である。
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