研究課題/領域番号 |
23570212
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
中川 拓郎 大阪大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (20324866)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | DNA複製 / DNA組換え / セントロメア / クロマチン / MCMヘリケース / Rad51 / 分裂酵母 / DNAポリメラーゼα |
研究概要 |
1.MCM蛋白複合体はDNA複製の際に鋳型二本鎖を解離するDNAヘリケースである。MCMは複製開始の前に染色体に結合して複製前複合体pre-RCを形成する。分裂酵母mcm6-S1変異株では、Mcm6のCdt1との相互作用が低下するためにpre-RCが大きく減少する。このmcm6変異株を利用して、pre-RCを多数形成することがS期での組換え修復を促進することを明らかにした(Maki et al. 2011)。2.興味深いことに、セントロメアにはpre-RC形成部位が密集している。mcm6-S1変異株ではセントロメアの転写サイレンシングが正常に起きないことから、pre-RCがセントロメアのクロマチン構造や機能にも影響する可能性が考えられる。そこで、ヒストン修飾について解析した結果、mcm6-S1変異株ではCENP-A結合の低下やH4K16のアセチル化レベルの亢進が見られた。また、顕微鏡観察により染色体分配の異常も認められた。3.Rad51はセントロメアでの染色体再編やクロマチン構造の形成・維持に必要である。そこで、自然発生的に起こる組換えを調べた結果、染色体腕部とは異なりセントロメアではRad51依存的組換えのみが起こり、Rad51非依存的組換えは起きないことが分かった。このような特徴を生み出す原因を調べたところ、DNAポリメラーゼαの変異によりセントロメアでもRad51非依存的組換えが起きた。しかし、DNAポリメラーゼεの変異ではこのような影響は見られなかった。これらの結果から、ラギング鎖の合成状態がセントロメア領域でのDNA組換えの経路選択を決定している可能性が示唆される。4.セントロメア配列を人工的に染色体腕部に移植した。この領域はヘテロクロマチン構造がつくられているがCENP-Aの結合は見られなかった。この領域でもRad51依存的組換えのみが起こることが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1.mcm6-S1変異がセントロメア領域でのCENP-AやヒストンH4のアセチル化レベルに影響を与えることが分かった。MCMによるセントロメアのクロマチン制御の「分子メカニズム」を明らかにする上で重要な知見が得られたと考えられる。2.多くの真核生物のセントロメアにはリピート配列が存在する。しかし、複雑なクロマチン構造をつくるセントロメアでのDNA組換えのメカニズムはこれまで不明であった。これまでに我々は、セントロメアと染色体腕部で起こる組換えの相違点を2つ発見した(Rad51依存性、交叉型・非交叉型の比)。3. Rad51依存的組換えとRad51非依存的組換えとの経路選択がどのようにして起こるのかは謎であった。我々は、セントロメアでRad51依存的組換えのみが起こるためにはDNAポリメラーゼαの働きが重要であることを発見した。この結果から、DNA複製時の形成されるラギング鎖の状態が相同組換えの経路選択を決定する鍵であるが示唆される。
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今後の研究の推進方策 |
1.mcm6-S1で観察されたセントロメアでの欠損が、mcm6-S1と同様にpre-RC数の減少が起こるcdc18変異株でも見られることを確認する。その後、CENP-CあるいはChromodomainとCdt1などの融合蛋白をmcm6-S1株に発現しセントロメア特異的にpre-RC形成能を回復させたときにセントロメアの欠損が抑制されるのかを調べる。2.DNAポリメラーゼαだけでなく、RNAプライマーゼ、DNAポリメラーゼδ、DNAライゲースなどの複製因子も相同組換えの経路選択に関与するのかを調べる。これにより、ラギング鎖合成のどのプロセスが重要であるのかを明らかにする。3.染色体腕部に移植したセントロメア配列がどのように組換えの経路選択を制御するのかを明らかにするために、ヘテロクロマチンに特徴的なヒストンH3K9のメチル化酵素Clr4の欠失株を作成し組換えへの影響を解析する。また、移植したセントロメア配列を部分欠失することで、Rad51依存的組換えを引き起こすために必要なシス配列を決定する。
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次年度の研究費の使用計画 |
前年度と同様に、酵母培地、制限酵素、アガロースなどの「消耗品費」を中心に研究費を使用する。
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