研究課題/領域番号 |
23570213
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研究機関 | 名古屋市立大学 |
研究代表者 |
湯川 眞希 名古屋市立大学, システム自然科学研究科, 研究員 (00448705)
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キーワード | 葉緑体 / 翻訳開始 / 重複遺伝子 / in vitro系 |
研究概要 |
mRNA上の一つのタンパク質コード領域(以下シストロンと呼ぶ)の翻訳は、一つの翻訳開始機構によって進むと考えられて来た。 代表者は、 植物葉緑体のndhC/ndhK mRNAにおける重複遺伝子の下流側シストロンの翻訳において、今まで原核・真核生物ともに報告例が無い『1シストロン2翻訳開始機構』仮説を立てた。 通常のtranslational coupling機構である上流シストロンの5'UTRからの翻訳を介する「機構I」とは別の、5'UTRを介さず上流シストロンの内部を必要とする「機構II」の分子機構を、(1)リボソームは何処に入るか、(2)リボソームは内部配列を翻訳しながら進むのか、(3)固有のトランス因子が必要か、の3点を代表者が確立したの葉緑体in vitro翻訳系および大腸菌再構成in vitro翻訳系を用いて明らかにするのが本研究の目的である。 H24年度は研究実施計画に従い、(2) コード領域の途中から入ったリボソームは内部配列を翻訳しながら進みndhKのAUGに到着するのか、(3)固有のトランス因子が必要かの2点で解析を進めた。 その結果、ndhCシストロン中央部に存在するndhCと同じフレームのAUG-2(上流から2番目のAUG)から入ったリボソームは内部配列を翻訳しながら進み、下流シストロンの翻訳の再開始に利用されることが示唆された。また、大腸菌S30画分を用いた系でもndhKの翻訳が見られることから、下流シストロンの翻訳の再開始には葉緑体固有のトランス因子は特に必要ではないと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成24年度は「1シストロン2翻訳開始機構」仮説のうち 5'UTRではなく上流シストロンの内部を必要とする「機構II」の分子機構について、(2) コード領域の途中から入ったリボソームは内部配列を翻訳しながら進みndhKのAUGに到着するのか、(3)固有のトランス因子が必要かの2点について解析を進める研究計画であった。 これまでの実験で 葉緑体in vitro翻訳系に蛍光標識アミノアシルtRNAを加え反応産物をトリストリシンSDS-PAGEで分析したことろ、ごく微量のAUG-2から始まる約6kDの翻訳産物の検出に成功した。また、強力なUTRを用いてAUG-2から始まる翻訳を活性化させると、これに比例して下流の ndhK シストロンの翻訳が活性化されることがわかった。このことから、リボソームは内部配列を翻訳しながら進み下流の ndhK シストロンの翻訳開始に再利用されることが示唆された。 また、市販の大腸菌S30画分を用いてndhC/ndhK mRNAを翻訳させたところ、ndhK 産物にあたるバンドが検出されたことから、下流の ndhK シストロンの翻訳再開始には葉緑体固有のトランス因子は特に必要ではなく、mRNAの2次構造など基本的な翻訳機構で再開始が制御されている可能性が示唆された。これらの成果を得たことは、本年度の研究目標を十分に達成できたといえる。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度も引き続き(2)リボソームは内部配列を翻訳しながら進むのか、(3) 固有のトランス因子が必要かの解析をを引き続き行う。昨年度の解析から、葉緑体固有のトランス因子が制御に関わる可能性が極めて低くなったので、トランス因子の同定ではなくシス配列の同定に絞り込んだ解析を行う。すでに、ndhK 開始コドン直前の~40ntが必須領域と同定しているので、この領域の体系的な欠失・変異実験で必須領域を絞り込む。また、この領域の二次構造を調べ変化させてndhK翻訳能を比較し、二次構造が必要かどの配列が重要かを明らかにして、『1シストロン2翻訳開始機構』仮説のうち「機構II」についてその分子機構の解明を目指す。
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次年度の研究費の使用計画 |
物品費70万円 :変異導入に使用する合成オリゴ、種々の分子生物学用試薬・キット、蛍光標識アミノアシルtRNAなどを購入。 旅費10万円:分子生物学会(神戸)1名参加。 植物生理学会(富山)1名参加。 5万円×2回。 人件費謝金20万円:タバコの栽培、葉緑体ライセートの調製などの実験補助1名×30日分。 その他20万円:英文校閲(10万円)、論文投稿料(10万円)。 以上、合計120万円の使用を計画している。
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