mRNA 上の一つのタンパク質コード領域(シストロン)の翻訳は一つの翻訳開始機構によって進むと考えられて来た。また、シストロンが重複している場合、一般的に下流側シストロンの翻訳は上流シストロンに比べ極めて低い。ところが、タバコ葉緑体の ndhC/ndhK mRNA における下流側シストロンの翻訳は上流シストロンと同等であることから、下流側シストロン ndhK の翻訳機構について、今まで原核・真核生物ともに報告例が無い『1シストロン2翻訳開始機構』仮説を立てた。 通常の translational coupling 機構である上流シストロンの 5'UTR からの翻訳を介する「機構 I」とは別の、5'UTR を介さず上流シストロンの内部を必要とする「機構 II」に着目し、その分子機構について(1)リボソームは何処に入るか、(2)リボソームは内部配列を翻訳しながら進むのか、(3)固有のトランス因子が必要か、の3点を代表者が確立したの葉緑体 in vitro 翻訳系などを用いて明らかにするのが本研究の目的である。 H25 年度は昨年度に引き続き研究実施計画に従って、上記(2)、(3)についての解析を行った。本研究を通して、タバコ葉緑体のndhC/ndhK mRNAの翻訳機構IIにおいては、(1)点突然変異導入実験から、ndhCシストロン中央部に存在するndhCと同じフレームのAUG-2(上流から2番目のAUG)がリボソームの入り口となっていること、(2)AUG-2からの翻訳産物が検出されたので、リボソームが翻訳をしながら進み下流シストロンの翻訳再開始に利用されること、(3)大腸菌の翻訳系でもndhK の翻訳が再現できることから、葉緑体固有のトランス因子は下流シストロンの翻訳再開始には特に必要ではないこと、以上3点を明らかにした。
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