研究課題/領域番号 |
23570215
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研究機関 | 東京農業大学 |
研究代表者 |
笠原 浩司 東京農業大学, 応用生物科学部, 准教授 (40304159)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 転写 / 出芽酵母 / ヌクレオソーム / リボソーム / PIC (転写開始前複合体) / RNAポリメラーゼ |
研究概要 |
2011年度は、主にリボソームタンパク質遺伝子プロモーターにおけるPIC形成の位置決定の制御機構をより詳細に解明するために、それに関与する因子の遺伝学的探索を中心に研究を進めた。Hmo1の主要な標的遺伝子の1つであるRPS5プロモーターは、Hmo1の欠失により本来の転写開始点 (ATGより-36 bp上流)からの転写が減少し、本来Hmo1の結合によって転写開始が抑制されているIVR内に強い転写開始点 (同-215 bp)が生じることが明らかとなっている。そこでRPS5の遺伝子プロモーターを酵母HIS3遺伝子ORFにつなぎ、さらに転写開始点が上流側にシフトしたときのみHIS3タンパク質の翻訳が起こるような改変を加えたレポータープラスミドを構築した。このプラスミドを持つ酵母野生株はヒスチジン欠損培地で生育不能であるが、HMO1欠損株では転写開始点が上流にシフトし、同培地での生育が可能となった。 酵母野生株に対し変異源EMS (2%)処理を行った後に、このレポータープラスミドを形質転換し、ヒスチジン欠損培地に塗布した後、生育してきたコロニーについて、各種の段階を経て擬陽性と思われるものを除いた上で、残った変異株について酵母ゲノムライブラリーからの相補クローンの探索、あるいは変異株の全ゲノム配列の決定により、目的とする変異の同定を行った。その結果、HMO1遺伝子内の変異が多数同定されるなど探索系として適切であることが明らかになるとともに、これまでリボソームタンパク質遺伝子の転写への関与が知られていなかった染色体関連因子の変異を同定することにも成功した。現在は探索を継続すると共に、得られた変異株の異常を詳細に解析することにより、それらの因子のリボソームタンパク質遺伝子プロモーター上における本来の役割を明らかにするべく研究を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
新しい大学に移籍し、新たに研究室を立ち上げている最中のため、目的とする遺伝子やタンパク質の機能を解析するための測定機器や、放射性同位体化合物の利用を自由に行うことが困難な状況であった。加えて申請者の他に人手がなかったこともあり、申請時に挙げた3つの計画の2つについてはあまり研究を進められていない。しかしながら、残りの一つの計画については、それを集中的に行ったこともあって、当初の予定を超えて進捗し、多数の変異株を取得すると共に、その中のいくつかについては原因となる遺伝子の同定が完了し、その解析が進んでいる。そのため総合的に見た場合、研究は概ね順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
リボソームタンパク質遺伝子の転写開始点に異常を示す変異遺伝子の探索においては、変異によりヒスチジン欠損培地での生育が可能となる株を選択するため、それを相補する遺伝子をライブラリーから単離する際には、同培地での生育が再び不能になるものを(他の生育可能なコロニーの中から)選別する必要があるため、目的の遺伝子の同定の効率が極めて悪いことがネックとなっている。そこで同様の探索系を、URA3遺伝子をレポーターにして構築し、目的とする変異株をウラシル欠損培地上で生育が可能となるものとして単離した後に、今度は細胞内でURA3遺伝子産物によって毒に変換される5-FOAを含有する培地での生育を指標に、ライブラリーからの原因遺伝子の同定を行うことで、変異株の取得から原因遺伝子の同定までの過程を大幅に効率化していく予定である。また本レポータープラスミドを持つHMO1遺伝子破壊株が、5-FOA含有培地で生育できないことを利用し、ここに酵母での発現が可能なヒトのcDNAライブラリーを形質転換し、Hmo1の替わりにプロモーター上の低ヌクレオソーム状態を認識して結合し、非特異的な転写開始前複合体の形成を抑制する活性を持つ高等真核生物の因子の同定を目指す。また今年度はリボソームRNA遺伝子上におけるHmo1の機能についての解析も平行して行っていく予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
2011年度は、所属機関が替わって新しく研究室を立ち上げる時期であったため、目的とする遺伝子やタンパク質の機能を解析するための測定機器や、放射性同位体化合物の利用を自由に行うことが困難な状況であった。そのため申請時に挙げた研究計画のうち、主に遺伝学的な探索・解析を集中的に行った。そのため、各種機器測定に必要な試薬、キット類、放射性同位体化合物などの購入を次年度に行うことになり、その分が次年度に使用する研究費という形で生じることとなった。一方、各種測定に必要な機器類については本年度の予算で一部を購入することが出来、これまで実施が困難であった解析が次年度には実施出来る体制をある程度整えることが出来た。 本年度は、2011年度に単離、取得、同定した変異株、変異遺伝子などの機能解析を中心に行っていく予定であり、そのために必要な上記の消耗品を中心に予算を使用して行く予定である。
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