研究課題/領域番号 |
23570217
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研究機関 | 独立行政法人理化学研究所 |
研究代表者 |
何 発虎 独立行政法人理化学研究所, RNA生物学研究チーム, 研究員 (30443021)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | SP-RING / SUMO E3 ligase hMMS21 / Ubc9 / NMR / complex structure |
研究概要 |
ユビキチン化とSUMO化では、アミノ酸配列の類似したE2酵素(ユビキチン化ではUbc5, Ubc13, SUMO化ではUbc9)にユビキチンおよびSUMOが結合した中間体が生成され、E3酵素を通してターゲット特異的にユビキチンあるいはSUMOを結合させる反応が起こる。ユビキチン化ではE3酵素がもつRing-fingerドメインあるいはU-boxドメインがE2酵素と相互作用することにより、E2-E3間の相互作用が担われている。SUMO化にかかわる蛋白質では、Ring-fingerやU-boxと類似した亜鉛結合ドメインをもつにもかかわらず、ユビキチン化に関わらずに、SUMO化にかかわるものがある。本研究では、このような亜鉛結合ドメインのなかでSP-ringドメインとPMLリングドメインについて、SUMO化反応のなかでどのような働きをしているかについて構造生物学的な解析を行い、ユビキチン化とSUMO化を区別する要因について考察した。また、ADP-リボシル化axinのユビキチン化に関係するE3酵素RNF146がターゲットを認識するメカニズムを明らかにするため、この蛋白質がもつ新規のWWEドメインについて、ターゲットであるADP-riboseとの複合体解析に取り組むとともに、ADP-リボシル化酵素がもつWWEドメインとのターゲット認識の違いをNMR法によって比較することによりWWEドメインのサブブループと機能の違いについて考察する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
SP-RINGの複合体解析:本年度は、SP-ringについて(1)無細胞蛋白質合成系をもちいいることにより安定同位体標識を行ったSP-RINGドメインおよびUbc9を作成し、NMR法による構造解析に成功した。(2)さらに、SP-RINGドメインとUbc9との相互作用をNMR法によって同定した。この観測の結果、SP-RINGドメインとUbc9との相互作用面においてシグナルの広幅化がおこり、複合体解析が難しいことがわかった。(3)そこで、SP-RINGドメインとUbc9との会合面に存在し、とくにシグナルの変化が大きいTyr残基をAlaに置換した変異体を作成した。生化学的な実験によってこの変異体のUbc9との相互作用は、野生型と比べて変化がない。この変異体をもちいることにより広幅化をおさえることに成功し、2D,3D-NMRの手法によってSP-RING-Ubc9の複合体の構造解析に成功した。PML-リングドメインについては、すでにその溶液中の構造を決定し、これが、いままで知られていた構造とは、異なる構造をとることを明らかにしていた。興味深いことにPML-リングドメインをMBPとの融合蛋白質にした場合、SUMO-Ubc9を用いることにより、MBPをSUMO化することがわかった。しかし、NMR法による相互作用実験により、PML-リングは、SUMOともUbc9とも相互作用しないことが明らかになった。このことは、PML-RINGの相互作用様式が現在まで知られているRING-fingerとE2のものとは異なることが明らかになった。また、RNF146のWWEドメインとATPとの複合体を決定することができ、NMRの滴定実験からADP-リボシル化酵素とは、ADP-riboseとの相互作用様式が異なることを明らかにできた。
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今後の研究の推進方策 |
現在、SP-RINGドメインとUbc9との相互作用については、変異体作成を行う。これにより、構造から認識に重要と推定されたアミノについて生化学的な実験を行い、ユビキチン化で見られるE2-E3酵素の相互作用との違いを明らかにすることにより、ユビキチン化とSUMO化で見られる認識の違いについて明らかにしていく。また、PML-RINGについては、MDM2蛋白質の別のRING fingerと相互作用するという報告がなされている。そこで、MDM2のring-fingerの発現系を構築し、安定同位体標識をおこなった試料を作成することにより、PML-Ringとの相互作用解析をNMR法を用いて行う。また、PML-RINGを介したSUMO化について調べるためSUMO-Ubc9を作成して相互作用を調べる実験を計画している。WWEドメインについては、生化学的な実験を行うことにより、論文発表を行う計画である。
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次年度の研究費の使用計画 |
昨年度の研究状況としては、科学研究費の採択以前に作成した試料を用いることにより、相互作用分子等の購入によって実験を進めることができたが、昨年度は、震災の影響および夏季の節電等の影響により実験設備等の利用が大幅に遅れたため、新規の試料作成のための消耗品の消費が遅れ、予算について計画どおりの消化をすることができなかった。そのため、昨年度の予算を、次年度に繰り越して実験継続のための試料作成および測定のための試料管の購入等にあてることにした。また、本年度につしても研究費は、PML-RING, SP-EING, WWEドメイン、MDM2 RING-Fingerについて発現系を構築し、非標識体および安定同位体標識の作成を行うための遺伝子実験、安定同位体、培養用培地等のための消耗品、無細胞蛋白質合成系で蛋白質を作成するためのテンプレートmRNAを作成するためのT7酵素などの消耗品を購入するために用いいる。また、NMRの実験のために、試料管、溶媒等の消耗品の購入にも用いる。さらに、構造情報をもとにした生化学実験(電気泳動等)のための消耗品にも用いる。
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