研究課題/領域番号 |
23570219
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研究機関 | 独立行政法人情報通信研究機構 |
研究代表者 |
小川 英知 独立行政法人情報通信研究機構, 未来ICT研究所 バイオICT研究室, 専攻研究員 (20370132)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 転写因子 / クロマチン / 翻訳後修飾 / 核内受容体 / 核構造 |
研究概要 |
細胞分化過程において、転写因子のクロマチン上にある標的遺伝子への結合制御は細胞の運命決定に重要なステップであり、その過程に必須な転写制御領域のクロマチン構造変換機構の解析が、エピジェネティック制御を理解する上でも重要な課題の一つとなっている。 本研究では初年度に当たり従来の手法では困難であったゲノム上の転写制御領域のクロマチン構造を可視化するシステム構築を目的とした。初めに、ステロイドレセプターの標的配列(MMTV-LTR)を直列に複数コピーゲノム上に有したMMTVアレイ細胞株をヒトがん細胞で樹立するために、ウシパピローマウイルスの配列を有するMMTV-Lucレポーター遺伝子を構築し、このレポータープラスミドが従来のレポータープラスミドと比較してどのような活性を有するのかを検討した。その結果従来知られているレポータープラスミドよりもバックグラウンドが非常に低く、さらに活性のダイナミックレンジが非常に高い事が判明した。これはこのプラスミド自身がクロマチン構造を形成できることを示唆しており、このプラスミドを用いることで有用なアレイ細胞を樹立できると考えた。このプラスミドと同時にグルココルチコイドレセプター(GR)とGFPの融合タンパク質を導入した細胞を作製し、MMTVのアレイ領域が可視化出来るかを指標に細胞をスクリーニングした。その結果、リガンド依存的に複数のアレイ領域が観察される細胞が複数株、ヒトがん細胞で樹立できた。これによってホルモンの添加によって活性のON/OFFが可能なステロイドレセプターのクロマチンへの結合を可視化でき、その結合に伴った転写活性化時のクロマチン構造変換を蛍光顕微鏡および超高解像度顕微鏡によって経時観察することが可能となった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本申請研究期間3年の中でもっとも時間を有すると考えられるのは、ヒトがん細胞のMMTVアレイ細胞の樹立であった。従来のマウス細胞では、核内構造体の可視化が困難であるなど本研究遂行に不利な点が多かっため、より有用で解析の応用範囲が高いヒトがん細胞を用いて作成することに至った。初年度期間内に、この細胞の樹立に成功したことは、次年度以降の研究計画遂行において非常に重要であり、目的達成においてかなりの前進をしたと考えられる。また同時に複数の株を作成できたことから、本研究計画の実験で得られた結果を評価する上で特定の樹立細胞株でのみ見られるような結果では無く、より正確性の高い結果を得られる準備が整ったとも言える。
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今後の研究の推進方策 |
来年度以降は、本年度作成したMMVTアレイ細胞株を用いた解析に移るが、特にヒト培養細胞を用いて樹立した点を生かし、核内構造体の可視化およびその役割の解明と、ヒトの疾患に関与する因子の解析に焦点を当てて研究を遂行する予定である。核構造体で形成される複合体と、クロマチン上で形成される複合体の差異を免疫染色法と生化学的な解析を通じて明らかにし、核構造体と標的遺伝子上へのシャトリングの分子機構を解明する予定である。さらに必要に応じて、ARIP4やその相互作用因子を細胞核から精製して生化学的な解析行う。また、ARIP4の組織特異的な機能を明らかにする目的で共同研究で進めているノックアウトマウスができつつあるので、それらの組織学的、遺伝学的な解析を進める。発生段階におけるARIP4の機能が明らかになれば、細胞内であきらかになる分子機構の生理学的な意義付けができると考えている。
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次年度の研究費の使用計画 |
本申請研究においては常時細胞培養を行う。特に動物、昆虫培養細胞から大量に核抽出液を調製する必要があるため、培養用に用いる細胞培養培地とウシ血清、これらの培養および解析に必要なプラスチック器具、酵素類などの消耗品を計上している。またノックアウトマウスの解析のため組織染色を行うための試薬、ガラス器具を計上している。また本研究では、共同研究を行う連携研究者の東京大学竹内純准教授および、九州大学大学院諸橋憲一郎教授からの遺伝子改変マウスの組織および初代培養細胞はすべて無償で提供していただけるため、研究打ち合わせの旅費のみの計上となっている。
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