研究課題/領域番号 |
23570227
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
水島 寛人 大阪大学, 微生物病研究所, 助教 (30379094)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 細胞増殖 / 増殖因子 / 細胞接着 |
研究概要 |
EGFRシグナルとインテグリンシグナルの統合制御機構を明らかにするため、それらに共通したシグナル伝達分子であるfocal adhesion kinase (FAK)の役割に着目して解析を行った。FAKノックアウト細胞にEGFRとそのリガンドであるHB-EGFを、FAK存在下・非存在下で発現し、FAKの細胞増殖への関与を調べた。FAK非存在下では、EGFRとHB-EGFの発現は細胞増殖を殆ど亢進しなかったのに対し、FAK存在下では顕著に増殖を亢進することが分かった。FAKのリン酸化部位に変異を導入することにより、細胞増殖への影響を解析したところ、Src結合部位(Y397)など機能既知のアミノ酸残基に加え、これまで機能が不明であったチロシン残基X(YX)のリン酸化が、細胞増殖制御に関与することが分かった。 FAKはC末端に存在するfocal adhesion targeting (FAT)ドメインによりFAへ集積し、インテグリンあるいは細胞膜脂質と結合することにより構造変化を起こして低レベルで活性化する。活性化したFAKはY397を自己リン酸化することによりSrcをリクルートし、活性化ループなど複数の部位にリン酸化を受けることにより、キナーゼ活性の上昇と他のシグナル伝達分子の結合部位を提供する。非リン酸化型変異体(YXF)はFAに集積し、野生型よりも高いキナーゼ活性を示したのに対し、リン酸化型疑似変異体(YXD)のFAへの有意な集積が認められず、Y397のリン酸化レベルとキナーゼ活性の顕著な低下を示した。今年度の解析結果から、細胞増殖においてFAKが増殖因子シグナルと接着シグナルの統合分子であること、また、YXのリン酸化がFATドメインよりも上流でFAKの局在を制御することにより、FAKの機能を調節していることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
20種類以上のFAK変異体の機能を解析することにより、EGFRシグナル依存的な細胞増殖に関与する複数のリン酸化部位を明らかにすることが出来た。それらのうちの1つYXのリン酸化は、FAKの局在を制御することによりFAKの機能を制御していることを見出した。この様なリン酸化によるFAKの局在制御機構を明らかにした報告はこれまでないため、新規の細胞増殖制御機構の存在を示すことが出来ると考えられる。現在、抗リン酸化YX抗体の性状ならびにそれを用いた解析を行っている段階である。研究計画目標に掲げていた、YXのリン酸化状態に応じて結合する分子の同定に至っていないことから、当初の予定よりも達成度はやや低いものと思われる。
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今後の研究の推進方策 |
前年度の計画目標に掲げていた新規FAK結合タンパク質の同定を最重要課題として研究を遂行する。それ以外の研究内容(新規FAK結合タンパク質の機能と分子機構解析)に関しては、当初の計画通り遂行する。
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次年度の研究費の使用計画 |
比較的予算がかかることが見込まれていた、新規FAK結合タンパク質の精製とその質量分析による同定が実施出来なかったため、研究費の見込額と執行額が異なった。次年度においてこれらも併せて遂行するため、当初予定していた研究内容と研究費で計画を実施する。
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