FAKのFERMドメインのチロシンリン酸化が、EGFRリガンドであるHB-EGFに依存した細胞増殖を制御している可能性を、以下の結果から明らかにしてきた。1)FAK欠損細胞はHB-EGF依存的に増殖しないが、外来性FAKを発現することによりHB-EGF依存的に増殖する。2)疑似リン酸化変異体YDは、増殖亢進活性が極度に低下している。3)FAKの活性化に必要な自己リン酸化とSrc依存的リン酸化がYDで顕著に低下している。4) YDはチューブリンと結合するHsp90を介して微小管と結合し、接着斑に局在しない。5)YDは内在性FAK発現細胞の増殖を抑制する。以上の結果より、FERMドメインのリン酸化は、FAKの接着斑への集積と活性化を抑制し、増殖抑制に関与すると考えられた。 YD発現細胞をHsp90阻害剤で処理したところ、YDは速やかに分解された。このことから、FERMドメインのリン酸化は分解シグナルになっており、Hsp90はFAKの分解を抑制することが分かった。 細胞を様々な薬剤による処理ならびに条件で培養し、リン酸化特異的scFvを用いてリン酸化の検出を試みたが、リン酸化は検出出来なかった。質量分析でもリン酸化は検出されなかった。 Hsp90は細胞増殖に必須であることから、Hsp90によるリン酸化FAKの微小管への結合を介した不活性化は、単純な増殖抑制機構というよりはむしろ、細胞の生存に関与している可能性が考えられる。FAKのリン酸化と分解を誘導する外的刺激に応答して、Hsp90はFAKを微小管にトラップすることにより、細胞周期を一時的に停止させる機構に関与しているかもしれない。今後はFAKの分解を誘導するFERMドメインのリン酸化が、どの様な刺激あるいは生物現象で生じるのかを、明らかにする必要があると思われる。
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