研究課題
これまでの私たちの解析により,LETM1はミトコンドリア形態だけでなく,クリステ構造の形成に大きな役割を果たすことが明らかとなった。さらに直接的なLETM1機能を解析するために,その機能を失う点変異の同定を行った。酵母LETM1相同遺伝子(MDM38)を欠損した株は,ミトコンドリア機能が低下するため非発酵性の糖を炭素源とする培地では生育できない。この表現形はヒトLETM1遺伝子の発現により相補される。この系を用いて,ヒトLETM1の機能変異を検索した。昨年度までの結果より,LETM1に特徴的なEF handやLeu zipperドメインの欠損体は酵母の生育を相補できたが,様々な種のLETM1同士に高度に保存されたLETMドメインの欠損では生育を相補することはできなかった。そこで,LETMドメインの中で高度の保存された電荷を持つアミノ酸残基をアラニンに置換する変異体を作成して,酵母の生育を調べた。その結果,2種類の変異体(D360AとR383A/G384A/M385A)がmdm38欠損株の生育を相補できなかった。このことは, LETMドメインがその基本的な機能に重要であり,特にその中でも360番目のアスパラギン酸残基と383番目のアルギニンから385番目までのメチオニン残基が機能に必須であることを示している。昨年度に私たちが論文として報告した細胞内ミトコンドリア運搬に働KLP6の相互作用因子KBPは,これまで細胞質に局在する可溶性のタンパク質だと考えられていた。そこで,神経芽細胞 neuro 2aを用いて内在性 KBPの細胞内局在を調べた結果,分化に伴い形成されるneurite内のミトコンドリア上に顕著なKBPのシグナルが検出され,KBPが運搬されるミトコンドリア上に存在することが確認された。このことは,KBPがKLP6と共にミトコンドリアの軸索移動に働くことを示唆している。
2: おおむね順調に進展している
平成24年度は,KBPの細胞内局在を明らかにすることで,その機能がミトコンドリア運搬に関わることを強く支持することができた。LETM1に関しては,機能欠損のミスセンス変異を複数見出すことができた。これにより,酵母を用いた遺伝的な相互作用因子の同定や,クリステ構造の再構成系での機能と形態の相関を明らかにする手段を得ることができた。これらを,最終年度である平成25年度には,論文として形に出来るように取り組んでいきたい。
LETM1の機能を欠損したミスセンス変異体を用いて,網羅的に相互作用因子を遺伝的手法で同定していくことで,LETM1/MDM38の機能に迫りたい。また,クリステ構造のin vitro再構成系を用いて,LETM1機能と膜陥入機構との関連を詳細に検討したい。昨年度から引き続き,3種類のキネシン分子(KIF1Bα, KLP6, KIF5/KHC)がどのようにミトコンドリア運搬に使い分けされているのかを安定ノックダウン細胞株を樹立することで検討したい。さらに,KBPのキネシンATPase活性に与える影響や,膜への結合様式を生化学的に検証する予定である。
研究代表者はこれまで線虫・動物細胞を取り扱ってきており,本研究計画での線虫用インキュベーター,実体蛍光顕微鏡、動物細胞用のCO2インキュベーター,コンフォーカル顕微鏡などは現有の研究設備・施設を使用するため,平成24年度同様に,研究経費は主に消耗品費に充てる予定である。昨年度は立教大学移転の初年度にあたり,私立大学戦略的研究基盤形成支援事業などで本研究助成金に次年度使用額が生じたが,最終年度ではすべて消耗品に充てる予定である。
すべて 2013 2012 その他
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 2件) 学会発表 (1件) (うち招待講演 1件)
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