研究課題/領域番号 |
23570233
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
角 智行 九州大学, 医学(系)研究科(研究院), 特任助教 (90378894)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 発生・分化 / 幹細胞 / シグナル伝達 |
研究概要 |
本計画研究では、初期胚発生過程の内部細胞塊として胚性幹細胞株を、原始外胚葉としてエピブラスト幹細胞株をモデル系として、生体において着床前後に生じる幹細胞の性質転換,胚体外・胚体内組織由来のシグナル因子に対する応答性の変化がどの様な分子機構によって成立するのか、そのメカニズムを分子・細胞レベルで明らかすることを目標としています。特に、初期胚発生において中心的役割を担っているNodal/Smad2シグナルに焦点を当て、着床後の幹細胞においてNodal/Smad2シグナルはどの様な分子機構で多能性維持の責任因子として機能を獲得しそれを実行するのか、標的遺伝子エピゲノムの変化とその制御に関連づけ明らかにしていきます。今年度は、サブテーマ(1)「Nodal/Smad2シグナルの標的遺伝子の同定」に関して研究を実施しました。(1)Nodal/Smad2シグナルの標的遺伝子の同定 胚性幹細胞においては、Oct4, Sox2, Nanogといったコアとなる転写因子に加え、その発現を制御するLif/Stat3/Myc/Klf/Tbx3, Bmp/Smad1などのシグナル経路や転写因子が多能性維持に重要な役割を担っていますが、エピブラスト幹細胞においてはいまだNodal/Smad2の標的遺伝子としてはNanog以外に明らかではありません。そこで今年度は、エピブラスト幹細胞におけるSmad2のクロマチン免疫沈降(chromatin immunoprecipitation: ChIP)を行い、次世代シーケンサーによる解析を行うことでSmad2の標的遺伝子をゲノムワイドに同定しました。 現在、得られたデータを基にバイオインフォマティクスによる解析を進めています。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
今年度予定いていたエピブラスト幹細胞からのクロマチン免疫沈降は、胎生6.5日マウス胚からのエピブラスト幹細胞株の樹立が予想以上に困難であったこと、またクロマチン免疫沈降に用いる抗体の選別および種々の条件検討に思いのほか時間を要したことが研究の達成度に大きく影響を与えました。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、着床前後における幹細胞の多能性維持機構解明に向け以下のサブテーマを実施します。(1)Smad2標的遺伝子のエピゲノム 着床によってNodal/Smad2シグナルは幹細胞に対する多能性維持の責任因子として機能を獲得します。発生段階の異なる幹細胞において認められるNodal/Smad2シグナルの応答性の違いが、標的遺伝子のエピゲノムの変化に起因するかを明らかにするため、DNAのメチル化及びヒストン修飾に関して解析し、先に同定されたSmad2標的遺伝子のエピゲノム状態を胚性幹細胞-エピブラスト幹細胞間で比較します。(2)Smad2の新規パートナーの同定と機能解析 一般にSmad2はDNAとの結合能が弱く、その転写制御にはFoxH1, Smad4等のパートナー分子との相互作用が必要です。しかし、これまでのノックアウトマウスの解析から、内部細胞塊,原始外胚葉の多能性維持や中胚葉誘導に対してFoxH1やSmad4は必須ではないことが示唆されており、いまだ同定されていないパートナーの存在が考えられています。そこでその様な分子を同定するために、[1]酵母Two-hybridシステム、[2]組換えSmad2蛋白質を固相化したアフィニティー精製による結合蛋白質の同定を行います。
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次年度の研究費の使用計画 |
達成度の項に記載した様に、当初予定していた研究計画が遅れたため次年度に繰り越す研究費が生じた。次年度では複数サンプル、胚性幹細胞・エピブラスト幹細胞間の比較検討など、前年度に実施出来なかった研究計画に関して優先的に当該研究費を使用していく。また次年度の研究計画に関して、前年度の計画遅延の影響が最低限になるよう、可能な限り同時並行的に実施していく予定である。サーマルサイクラー、リアルタイムPCR用試薬は、発現プロファイルの定量的評価や定量的にエピジェネティックランドマークの解析を容易にする上で必須である。また各種試薬・器具・消耗品に関しては、これまでの統計から一人あたりの年間研究費(細胞培養試薬、遺伝子発現解析のためのRT-PCR用試薬、制限酵素、蛋白質発現解析用の分析試薬・抗体等)を概算しており、適宜購入していく予定。
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