研究課題
小胞体、ゴルジ体、細胞膜に局在するタンパク質や分泌タンパク質は、合成後小胞体に組み込まれ、小胞輸送によって細胞内を移動する。輸送のスタート地点である小胞体において、タンパク質はCOPII小胞に取り込まれて搬出される。近年COPII小胞輸送システムの破綻が様々な病気の原因となることが示され、高等動物における詳細の解明が待たれている。本研究では、2種の動物固有のCOPIIコート結合タンパク質(p125・Sec16B)に関して解析を行い、両者の輸送における役割を明らかとすることを目的とする。平成24年度は以下の結果を得た。1. p125の解析p125の欠損が小胞体からの輸送に与える影響を詳細に解析するために、SV40T 抗原で不死化したp125ノックアウトマウス由来のマウス胎児繊維芽細胞を作製した。2. Sec16Bの解析前年度行ったSec16B結合タンパク質の探索で得られた2種のタンパク質、Aralar1/2とRafキナーゼに関して、培養細胞内での結合を確認した。HeLa細胞におけるSec16Bの発現抑制が脂肪滴の形成を促進することを新たに見出した。脂肪滴表層タンパク質Adipose triglyceride lipase (ATGL)は脂肪滴の分解に関わる。ATGLの脂肪滴への局在にはCOPII小胞が関わる可能性が指摘されていた。ATGLの脂肪滴への局在が、Sec16Bの発現抑制によって著しく阻害されることを見出した。従ってSec16Bの発現抑制による脂肪滴形成の促進の原因のひとつは、脂肪分解を司るATGLが脂肪滴に局在しないためであると考えられた。これらの現象はSec16Aの発現抑制時には見られなかった。これらの結果は、Sec16Bが小胞体から脂肪滴へのタンパク質の輸送に関わる可能性を示唆する。
2: おおむね順調に進展している
p125に関しては、 輸送解析に用いるp125-/-マウス胎児繊維芽細胞の作製を完了した。以前作製したマウス胎児繊維芽細胞に較べ、SV40T抗原で不死化したマウス胎児繊維芽細胞は生育状態が良い。今後この細胞株を用いて、詳細な輸送解析が可能であると考える。Sec16Bに関しては、小胞体からペルオキシソームへの輸送機構の解明を目指し、輸送小胞形成のin vitro系構築に着手したが、未だ成果は得られていない。しかし一方、Sec16Bが小胞体から脂肪滴へのタンパク質輸送に関わるという知見を得ることができ、新たな展開が期待できる。
当初の年次計画に沿って計画を推進するが、Sec16Bと脂肪滴形成との関わりという新しい知見が得られたので、計画を追加する。p125に関しては、新たに作製したp125ノックアウトマウスの胎児繊維芽細胞を用いて、様々な輸送基質の輸送解析を行う。Sec16Bに関しては、小胞体からペルオキシソームへの輸送を解析するため、In vitro系の構築を続行する。また、Pex16の変異体を用いた輸送過程の解析を行う。さらに小胞体から輸送されるペルオキシソーム膜タンパク質として、Pex11に注目し、輸送解析を行う。2種の新規Sec16B結合タンパク質、Aralar1/2とRaf1、に関して、Sec16Bとの関係に注目しつつ、小胞体およびペルオキシソーム形成への関与について解析を進める。小胞体から脂肪滴へのタンパク質輸送におけるSec16Bの役割について解析を進める。特に脂肪滴形成過程へのSec16B発現抑制の影響を解析する。
平成 24年度と同様に、大部分を物品費に使用する。学会参加のための旅費に一部を使用する。
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