研究概要 |
栄養源は細胞の成長・増殖に必須である。したがって、栄養環境を正確に感知し、それに迅速に応答することは、細胞にとって最も重要な生命反応の1つである。このような栄養環境シグナル伝達系の中枢としてTor複合体1(TORC1) が機能している。TORC1は酵母から植物・ほ乳類にいたるまで、真核細胞に広く保存されている。よって、TORC1がどのようにして栄養環境情報を捉えているか、つまりTORC1の制御機構も広く保存されていると考えられる。しかしながら、そのメカニズムは不明な点が多く残されている。 ほ乳類で提唱されているTORC1制御因子候補の多くが酵母にも保存されているが、TORC1と違って細胞の生育に必須の機能を持っていない。そこで、制御因子遺伝子の欠損株を用いて検討を行ったところ、それらの候補は酵母TORC1の制御には関与していないことが示された。一方、Kimら(Han et al. Cell 2012)、De Vigillioら(Bonifils et al. Mol Cell 2012)が報告したLeucyl-tRNA synthetase (LeuRS, 出芽酵母CDC60)に関して追試を行ったところ、LeuRSはTORC1の制御に関与していることが確認されたが、それに留まらず、他のAminoacyl-tRNA synthetase (ARS)もTORC1の制御に関与していることが新たに示された。ARSはペプチド合成に関与する必須遺伝子であるが、それだけではなく、栄養(アミノ酸)環境シグナル伝達にも必須の役割を果たしていることが示唆された。ペプチド合成に関与する必須因子 (Translational factors)の多くはTORC1制御には関与していないため、タンパク翻訳がTORC1の制御に関与している可能性は否定された。さらに、必須遺伝子の1つがTORC1制御に関与している可能性が得られ、引き続き検討を行っていく予定である。
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